突然寡男になった彼に・・・
そして、その1週間後、紗英子から電話があった。
なんと、赤田くんの奥さんが自動車で自損事故を起こし、同情していた姑とともになくなったと言うのだ。
どうやら、姑の病院通いの送迎中に起きた出来事だったらしい。
赤田くんの奥さんは精神的な病にかかっており、服用していた強い薬が原因じゃないかと紗英子は自説を述べていた。
「きっと、服用している薬の副作用で眠くなって、運転中に居眠り運転をしちゃったんじゃないかしら」
訃報に乗じて、そのようなプレイベートの話を私にするなんていかにも紗英子らしい。
葬儀には、大阪に在住している私と紗英子の2人に加えて、東京に在住している仲良し女子3人グループの残りの2人も一緒に出席した。
そして、葬儀が終わった後、皆で居酒屋に行き精進落としをしました。
最初は赤田くんのことを哀れんでいたが、酒が回ると本音が出始める。
紗英子は今回の事故は赤田くんが幸せになる転機なんだと言い出したのです。
しばらくして話題は世間話になり、いつの間にか下ネタになっていました。
さすが熟女は少女時代とは違って恥じらいがない。
旦那のセックスの誘い方が下手だとか、芸能人なら誰に抱かれたいとか、夜の営みは月に何回するのが最適かとか、まあ出るわ出るわ。
どうやら、彼女たちは妊活にかなり苦労したようだ。
昔は堅物だと思っていた香代子は、
「うちの旦那はエッチが終わったら、私の両足を手でつかんで広げ、持ち上げて逆立ち状態にするの」
香代子の愚痴は止まらない。
「そして、精子が入ったまま私の両足を持ちながら振って、私の体を激しく揺すろうとするの。俺の精子が卵子に届くようにだって」
私たちはその話に全員で爆笑した。
その時、居酒屋店内には他にほとんど客がいなかったので、彼女たちは何の恥じらいもなく妊活の話題で盛り上がっていた。
すると、今後は彫り深い顔が特徴の美琴が、あっけらかんと話しを切り出した。
「私なんか避妊手術を受けていたから、医者から排卵誘発のタイミングに合わせてエッチの日時指定をされていたの」
「うんうん、それでそれで」
「そうしたら、そんな時に限って私の旦那は全然アソコが勃たなかったんだよ。もう超がっかりしたわ」
「美琴の旦那、全然ダメじゃん」
紗英子が同情して言った。
「まあその日の夜は、村の法事で実家に帰っていたところだったから仕方がないかも。男って結構ナイーブだからね」
こんな話をしながら、この日は朝方まで語り合ったのだった。
それから、美琴は私の方を向いて話を続けた。
「そう言えば、由美香とこの旦那さんて大阪出身の人だったよね?」
「ちょ、ちょっと何よ。話を私に振るんじゃないわよー」
戸惑っている私に、彼女たちは笑い転げた。
その帰り道に、葬儀のシーンを回想してみた。
突然妻と死別して寡男になった赤田くんの悲しみを湛える表情を・・・。
だが、不謹慎ではあるが、そんな赤田くんに妙に色気を感じていたのだ。
「今度会えないかな?」
赤田くんからラインで連絡が入ったのが、それから1ヶ月後のことでした。
待ち合わせ場所の駅の改札口で、久しぶりに再開した赤田くんの表情は、葬儀と時とは違ってとても明るかった。
奥さんが亡くなった直後からしばらくの間は、肌が荒れ気味になってくすんで見えたが、今は満たされた肌ツヤが以前とはまるで違っていた。
赤田くんは本来のイケメンらしい美しさを取り戻していたのだ。
居酒屋に入って注文し終えると、赤田くんがジョッキのビールを一気に飲み干して、私に向かって言った。
「由美香ちゃんには誤解されたくないから言っておくけど、俺、妻を殺してなんかいないからね」
「はぁ?」
「だって、紗英子や会社で仲のいい同僚たちが、声を潜めて言うんだよ。赤田くん、奥さん、殺しちゃったの?って・・・」
私は飲んでいたビールを吹き出しそうになった。
それから、赤田くんはいろいろと話してくれた。
奥さんが亡くなって本当によかったと。
なぜなら、これからはやっと自分らしく生活していくことができるみたいだからだ。
それから、私たちはカラオケボックスで楽しんだ後、別れ際、赤田くんと唇を重ねた。
あのクラス一のイケメン男子の唇を奪ったのだ。
許されるなら同窓の女子たちに自慢してやりたいくだいだった。
それからしばらくの間、プラトニックなデートを赤田くんと続けた。
彼といる時間は本当に楽しかった。
私の上司であるセフレと過ごしている時とは、次元がまるで違っていた。
運動会、文化祭、修学旅行など、同窓の仲間とでしかわかりあえない世界に籠もることができるからだ。
それよりも何よりも、赤田くんといるとお互い素のままでいられるのが心地よかった。