妊娠しちゃったかも・・・
その翌日、赤田くんからラインで連絡があった。
「昨日はどうもありがとう。俺もう結婚する気はないんだけど、生涯のパートナーはほしいと思っているんだ」
続けてメッセージがこう書かれていた。
「もし、由美香ちゃんさえよかったら、これからも時々で構わないから、俺の恋人になってもらえないかな」
私はすごく嬉しかった。
「大丈夫。秘密は墓場まで持って行くから、旦那さんには絶対に黙っておくから」
それから丁度2週間ほどがたった時だった。
今までずっと不倫関係にあったセフレ上司に、ついに別れを告げようと決心する。
「あなたのこと旦那にバレてしまったわ。悪いけど黙って私と別れてくれないかな」
彼は少し不服そうな顔をしていたが、何とか納得させて彼との関係を断ったのです。
旦那という最強の切り札を出すことは卑怯だけど、もっと好きな人ができたなんて言うのは残酷すぎる。
どうか、早く素敵な新しい女性と巡り会えますように・・・。
赤田くんとの関係はゴールではない。
これは輝かしい人生の始まりなのだ。
私たちの不倫は純愛だ。
経済的支援や結婚といった相手に特に何も求める打算の類は一切なく、そこにあるのは癒やしの時間と濃厚なセックスだけでした。
赤田くんとのデートは平均して月に2回ほどで、会えばいつもラブホテルに直行直帰している。
たまには温泉や映画にでも行こうと提案するが、私にとって彼と一緒にいれるラブホテルの部屋ほどのパラダイスはないのだ。
こうして私は、いつもデートで必ず性交を求め、ベッドをビショビショにしてイッてしまう。
それはそうと、私は毎回彼の振る舞いに、過去の女性の影が見えてくる。
彼は時々、肩や耳を強めに噛んできたり、イラマチオで喉深くに挿れてきたりといった少しドキリとするようなことをしようとする。
しかも、お尻が真っ赤になるぐらいにスパンキングしてくることもあるのです。
また、彼の要求通りに乳首に爪を立てて摘み上げてあげると、人が変わったようにヒィヒィと乱れ喜ぶのです。
一体どんな女性と関係を持ってきたのか・・・、そのスケベで変態チックな性格と少年時代の純粋な心との大きなギャップに私は興奮する。
そんな彼との関係が始まってまだ3ヶ月ほどしかたっていない頃、事態が急展開する。
実は、私は新しい命を授かったのです。
慌てた私は赤田くんにラインで連絡を取った。
「ねえ。私、ひょっとしたら妊娠しちゃったのかも。だって生理が2ヶ月も全然来ないから・・・」
こんなメッセージを赤田くんに送ったのだ。
おそらく、彼は愕然としているはずです。
彼の元奥さんは48歳で閉経になっていたようで、いつもセックスは中だし天国を味わっていたとか。
だから、私とのセックスでも避妊具を付けずに生でやっていたほど。
後から聞いた話だと、その翌日の昼下がりに、紗英子から赤田くんにラインのメッセージが届いたみたいで、
「ねえ。なんか由美香から意味不明なラインが届いたんだけど。赤田くん少し話がしたいんだけど、すぐに電話してくれない。お願い。」
紗英子のメッセージにはスタンプがなく妙にざらついていた感じだったとか。
今思えば、その頃の私は少しずつ老眼になっていて結構ひどい状態になっていたので、ひょっとしたら、彼に送るメッセージを間違って紗英子に送ったのかもしれない。
昔から紗英子は、なぜかものすごく勘が鋭いところがあった。
だから、私と赤田くんとの関係がバレていないかちょっと心配だった。
ましてや今回は妊娠したかもというメッセージを送ってしまったかもしれないからだ。
彼はこのまま無視しようか迷っていたみたいだけど、紗英子のラインのトーク画面はもう既読になっているだろうと思ったらしい。
そこで、まずは、私に電話をして確認してみようと考えたそうです。
スマホを持ち直して電話を掛けようとした時、スマホがブルっと震えた。
それは、紗英子からの電話だ。
これはマズい。
それまで照らされていた日差しが一気に影となり、窓から差し込んだ日差しで照らされていた部屋が影で覆われ、その影に包まれた彼の体は一気に背筋が寒くなってきたとか。
「あのさぁ、由美香から私に何か妊娠したとか何とかってラインが届いたんだけど・・・これって赤田くんに送るはずだったのを私に間違って送ったんじゃないかな」
「えっ、何が?言っていることがよくわからないんだけど・・・」
「ひょっとして・・・由美香と付き合っていたの?」
「いや・・・そのー、まあ・・・何ていうか・・・」
「はっきりしなさいよ!」
「あぁ・・・、じ、実はそうなんだ」
「やっぱりね。そうだと思っていたわ。ということは、体の関係も当然あるのよね」
「・・・うん、ごめん。」
「妊娠したっていうことは、由美香のお腹の中にいる子は、赤田くんの子になるの?」
「いや・・・、それについては、まだ何とも言えないというか・・・」
「はぁ?何言ってんのよ!あなた以外に他に誰もいないじゃないの!」
「そ、そうかもしれないけど、ちょっと待ってよ。一度俺が直接由美香ちゃんに連絡を取って確かめてみるから」
赤田くんは怒る紗英子の心を宥めて何とかその場を収めると、その後、すぐに私に電話を掛けてきたのです。
「・・・はい、由美香です」
「あっ、もしもし、由美香ちゃん?あのさぁ、さっきラインでくれたメーセージなんだけど、妊娠って・・・それ本当なの?」
「・・・うん、本当。生理がなかなか来ないから、昨日産婦人科に行ってきたの。そうしたら、妊娠していますよって言われたの」
「そ、そうなんだ・・・」
「いいよ。私一人でも育てられるから・・・。だって、赤田くん、結婚はもうしないって言ってたから・・・」
そのまましばらく沈黙が続いた後、予想もしてない返事が彼から返ってきた。
「・・・いや、その・・・、正直、ビックリして一瞬頭の中が真っ白になったんだけど、やっぱり、ちゃんと責任は取らないといけないと思うんだ、父親として・・・」
「えっ?どういうことなの?」
「うん。まあ、あれだ、結婚しようかってことかな」
彼は頭をポリポリと掻きながら、少し照れくさそうにプロポーズしてくれたのです。
私はあまりの嬉しさに、こみ上げてきた涙が一気に溢れ出てきました。
そんな私を彼はそっと優しく抱き締めてくれて、今までで一番熱い口づけを交わしたのでした。
その急転直下の父親宣告の日から、丁度10年がたちました。
私たち夫婦は53歳になり、あの時できた子供も10歳の小学4年生にまで成長しました。
とても活発な男の子でなかなかの男前です。
ただ、顔は旦那の赤田くんには全然似ていなかったのです。
まさかとは思いましたが、万が一ということもあるかもしれない。
そこで、私は意を決してDNA鑑定をすることにしました。
寝ている間に赤田くんと息子の髪の毛を1本拝借し、鑑定結果を待つことに。
後日、その鑑定結果が出ました。
結果は・・・何と血縁関係がなかったのです。
恐れていたことが起きてしまいました。
でも、じゃあ、本当の父親は一体誰なんだろう・・・。
考えられるのは、赤田くんとは別に同時にお付き合いしていた、あの会社のセフレ上司です。
確かに言われてみれば、そのセフレ上司の方に息子の顔は似ています。
それに、赤田くん同様セックスの際はいつも避妊具をつけてなかったのです。
もうショックでした。
ずっと赤田くんの子供だと思って育ててきたのに、今更父親が違うなんて・・・。
これならDNA鑑定なんてやらなきゃよかった。
でも、もうどうしようもありません。
今から彼の子供を欲しいと思っても、私はもう子供を産める年齢ではなくなりました。
ショックですが、受け入れて生きていくしかないのです。
その後、この事実を旦那の赤田くんや息子には打ち明けれないままでいます。
正直に話した方がいいのか、それとも、このまま一生離さないでいく方がいいのか。
悩みに悩みましたが、このままずっと私の心の中に留めておこうと決めました。
血が繋がってなくても、息子は私と赤田くんの子供なのは変わりません。
今では子供も何の疑いもなく、赤田くんのことを父親だと思っています。
そして、赤田くんも自分の息子だと思って、これまで愛情を込めて育ててくれました。
私さえ黙っていれば、私たちのこの関係が崩れることはありません。
いや、例え打ち明けたとしても、赤田くんは今までと変わることなく、今後も自分の子供として接してくれるはずです。
そう、これでいいんだわ。
自分にそう言い聞かせながら、今日も朝学校に登校する息子と会社に出勤する旦那を玄関で笑顔で行ってらっしゃいと見送っています。