「だって。兄貴」
倉田くんはあたしがいない間に誰かに言い聞かせていた。
「高橋は一途だな。兄貴にはもったいねーや」
倉田くんが“兄貴”と呼ぶ男性は、教室の端から入ってきた。
「……高橋は俺より考えてるな」
そこには安東圭先生が。
実はこの二人は、腹違いの兄弟だ。
あたしは一切知らなかったが、ここでは普通の兄弟での会話になっている。
「好きなんだろ。兄貴だって」
「そうだな」
「ハッキリ。けど…なんで抑える?あいつはもう兄貴以外は見ねーよ?」
「だからだよ。今後の人生で俺より良いやつができるかもしれない。その時に俺の存在がブレーキにしたくねぇんだ。高橋は可愛いし容量良いし、俺以上のやつはすぐにでもできる」
「またそれかよ。だから結婚できねーんだよ兄貴は」
「黙れ」
「…ほら。」
「?」
倉田くんは大きくかぶる仮面を受け取った。
「それなら兄貴ってバレねーだろ?行って来いよ」
「……あぁ、サンキュ」
おでこと目を隠してマントを羽織る。
キャンプファイアーまで先生はやってきた。
あたしが他の男子と交代しそうになった時、割り込んできた。
「?」
「しっ。いい想い出にしよう」
「!!」
あたしにしては、先生だと確信した。
何も言わないけど幸せだ。
触れ合う手が熱くなって、顔が真っ赤になる。
その瞬間にダンスの音楽は止まってしまった。
先生は手を放そうとした。
けどそこで感極まったあたしは手をつかむ。
「っ…せんせ……」
涙目であたしは先生を見た。
倉田くんにはああ強気で言ったけど、本当は怖い。
就職が怖いのもそうだが、いつか先生が他の誰かと結婚したら、
あたしは耐えられない。
抑えようとつかんだ手を開放した。
けど、今度は先生があたしの手を取って校舎裏に走って回った。