ある日の夜、
家に近付いて来て、窓から室内の明かりが外に漏れているのを確認して、
玄関まで来た。
麻友はここで、ある決心をした。
(今日こそは、ちゃんと断ろう。それでももし強引に “あれ” をされたら、直ぐに家を出て、警察を呼ぼう)
麻友は鍵を開けて中に入った。
リビングには無精髭を生やした、シャツとパンツだけの父が、ソファに座ってテレビを見ていた。
麻友は心臓をバクバクと鳴らしながら、父の方をチラッと見て、早足で自分の部屋へ歩いた。
すると父も立ち上がって、麻友の方に歩いて来た。
麻友はその時、激しい恐怖に襲われた。
先程の決心も虚しく、父の立ち上がって歩いて来る姿に思わず怯んでしまった。
父は麻友の思っていた程小さくはなかった。
身長は自分と同じ位だったが、横幅は自分よりも一回りも二回りも大きかった。
果たしてこのまま自分の部屋に戻るべきだろうか?
麻友はこの時ひどく後悔した。
なぜ自分は家に帰ってきたのだろうか。
帰ってくる必要なんて全くなかったのに。
警察へ相談して、自分はネットカフェにでも泊まれば良い。
それなのに一体なぜ…。
麻友は逃げようと考えた。
しかしもう遅かった。
父は直ぐ目の前にいる。
麻友は自分の部屋のドアの前に立ち止まって、父を見た。
父は麻友の腰辺りをじっと見ている。
暫くして、父は自分の娘の異変に気付いて、顔を上げた。
「どうした?」
と言った。
麻友は父が自分を探る時の目を見て、更に恐怖が増して来る。
でも、言わないと…!