いつものラブホテルは『みっくすジュース』から少し離れたところにある。
何度か繰り返したこととはいえ……先に部屋に入るとさすがに緊張する。
いつも心の中では、「まぁ最悪すっぽかされても普通に宿泊すればいいや」と言い訳めいたことを考えるようにしていた。
もちろん、そんなことになったことはない。
服をハンガーにかけて、部屋の番号をラインで伝え、いよいよ手持ち無沙汰になった。
「……シャワー、浴びて待ってよ……」
このホテルのバスタブは自宅のそれの二倍はある。
実は楽しみにしていることの一つだ。
湯舟に湯をはっている間、髪を纏めて歯を磨き、ちょっと考えて、洗顔は控えた。
どうせ、汗でくちゃぐちゃになるって、わかっているのに。
さぁバスタブに浸かろうというところでチャイムが鳴る。
私はバスローブを羽織り玄関口へ向かった。
「早かったね」
扉の向こうにいた楓はスキニーパンツとシンプルなセーター、ジャケットという普通の男性の服装。
メイクもしっかり落とされている。
出迎えた私の姿を見て、不満そうな顔をした。
「俺じゃなかったらどうすんのよ。その格好」
「しょうがないじゃん。オートロックなんだから」
「そういう問題かねぇ……ほら、こんなに隙がある……」
楓は私を背後から抱きすくめ、バスローブの胸元から手を入れる。
「冷たっ!」
外気に冷やされた大きな掌が無遠慮に私の乳房を掴んだ。
抗議をこめて睨めば「どうせこれから風呂なんだからいいだろ」と薄く笑う。
一変して、ふてぶてしい。
「あ……」
手慣れた手つきでするするとバスローブを脱がされる。
「ん……ちゅ……っ」
互いの唇の柔らかさを確かめ合うように、はむはむとキスを繰り返す。
こすれ合う舌は熱を帯びて、口内をまさぐられる度に息が上がる。
ぢゅう、と舌をきつく吸われたとき、思わず身体がびくんと跳ねた。
「ん……は、ちゅ……む、ん……」
楓の柔らかくて厚い唇をもっと味わいたくて、もっともっと絡み合いたくて、角度を変えてキスを深くする。
「は……食われそ……ほんと、キス好きだよね……」
意地悪な楓は対照的にちゅっちゅっと優しく可愛らしい音を立てて私から逃げてしまう。
「ん……だって、気持ちい……」
もっともっと、と身体を密着させると、そのままなし崩しにお風呂場へ。
「ね。脱がせてよ」
楓は自らのベルのバックルを外す。
私はそれに従ってセーターに手をかけた。
どんなに女の子顔負けの可愛い顔をしていても、衣服を脱ぐ仕草や一糸まとわぬ裸体は、男性そのもの。
私はきれいに浮き出た喉仏や武骨な骨を唇でなぞる。
水を弾く滑らかな素肌は、皮膚で触れ合うだけでも火照るように気持ちがいい。
「……はっ。美香子ちゃんはそれも好きだよね。そんなにいいの? 俺の身体」
「だって……楓の肌、すべすべで気持ちいいんだもん……くすぐったい?」
「ちょっとね。焦らされているみたい」
仕返し、とばかりに耳を噛まれる。
「あっ……」
かりっ……と歯を立てられた後、尖らせた舌先でゆっくりと輪郭をなぞる。
つぅ、と肉厚の舌が耳たぶをなぞり、音を立てて吸い付いた。