光也(みつや)と名乗った彼とは、その後段々図書室で会う頻度が増えていって、冬になるとほぼ毎日、図書室で顔を合わせた。
相変わらず図書室はシンとしていて、そこは二人だけの秘密の場だった。
バラバラに座っていたのが少しずつちかづいて、気付くと、いつも隣に座るようになっていた。
お互い本を読んだり勉強をしたりしながら、どちらからともなく、手をつないだ。
初めてつないだ手はあたたかくて、お互いに緊張していることが伺い知れた。
「……なんか、照れるね」
静かな図書室の中で彼の温度を感じているのがなんだか恥ずかしくてたまらなくて、るみ子はそう呟いた。
光也も、小さくうなずいた。
「照れるね」
ふふ、とお互い笑う。手の甲をやさしく光也の指が撫でた。
初めてのキスは、それから少しした頃だった。
それもやはり、図書室だった。
手をつないで、お互い本を読んで。
絡み合った指が時折互いの皮膚を撫で、背筋がぞくりとした。
手から感じる体温に身体がじんわりと熱くなり、もっと触れたいと、そう思った時にはお互い視線があっていた。
言葉もなく、二人の顔がゆっくりと距離を短くする。
ちゅ、と触れあった唇は柔らかくて、軽い口づけはすぐに深く絡み合った。
「ん、んんっ……」
光也の舌が、るみ子の口内へと入ってくる。
ぬるりとした。生き物のように蠢くそれを口内へと招き入れると、舌に絡みついてきた。
るみ子も真似して、舌を擦り合わせる。
くちゅ、くちゅ、と水音が聞こえてきて、光也の手に後頭部を支えられ、さらに深く舌を絡み合わせた。
開いた唇がぴたりとくっつきあい、互いの口内を深く貪る。
飲み込み切れなかった唾液が唇の端から零れ落ち、るみ子の顎を伝って落ちていった。
唇が離れ、お互いに息を吸う。心臓がどきどきして、酸素が足りなくて息が上がっていた。
何度か呼吸をして、また、キスをした。
それを何度も繰り返して、気付くと窓の外は真っ暗になっていた。
換気のために小さく開いていた窓から冬の冷たい空気が入り込んできて頬を撫でると、冷たいはずなのにそれが火照った頬に気持ちよかった。
そんなことを、毎日繰り返した。
図書室に行くと光也がいて、しばらくすると口づけが始まる。
舌を擦り合わせるのは気持ちが良くて、もっともっとと互いの口内を貪った。
キスをする度に下腹がじわじわと疼いて、足の間がきゅう、とした。
手を重ねて指を絡ませ、キスと同じように互いの手をきゅう、と握って感触を確かめる。
光也に触れている場所が全て熱くて、唇を離した後は脳みそがじんとしびれて何も考えられなくなっていた。
誰かが来ることもなかったが、それでも開かれた空間でそういうことを繰り返すのは、なんだか悪いことをしているみたいでドキドキし
た。
それはきっと、光也も同じだったのだろう。静かな図書室にくちゅ、と唾液が絡まる音が響いてしまいそうな、そんなスリルがたまらなかった。