腰から背中を伝って、頭の先まで駆け抜けるような快感。
この感覚は、彼女と交わっているとき以外では、一度たりとも感じたことがない。
彼女のテクニックがそうさせているのか、相性がそうさせているのか、それを深く考えたことはないけれど、僕はたぶんそのどちらもあるからなのではないか、と思っている。
僕は今付き合っている恋人のことが好きだ。
大切にしたいと思っている。
もちろん、今こうして優香さんと交わることが、彼女を裏切る行為だということは理解している。
もし恋人にこの関係がばれれば、きっと僕はこの家に来ることはもう二度とないだろうと思う。
でも、来られる限り、僕は優香さんと交わることをやめることはないと思う。
どうしてなのか、と問われると僕はうまく答えることはできないのだけれど、その感覚は確信にも近い形で、僕の胸の中にずっとあった。
再び、鋭い快感が僕の体を貫いた。
「気持ちいいです」
「よかった。じゃあ、お母さん本気出しちゃう」
優香さんは、自分の若さを知っている。
けれど同時に、自分が母だということを知っている。
僕と人生のステージが違うことを、理解している。
ストロークが早く、激しくなる。
先ほどまでとは違い、ぞくぞくとした鈍い快感が、僕の腰のあたりにたまっていく。
打ちあがるその瞬間を待ち焦がれながら、しかしそれは黙って、そこにとどまっている。
ぐちゅ、ぐちゅ、という音が激しく響く。
僕の体は知らない間に前かがみになっていて、優香さんに覆いかぶさるような体勢になっていた。
僕の体で。その瞬間をひそめて待っていた花火が、一気に爆発した。
頭が真っ白になる。
「あ、い、イく……っ」
「このまま出していいよ」
彼女の口の中に打ち上がった花火は、真っ白な液体を変わっていた。
「ひっぱひでられ」
いっぱいでたね、と彼女は言いたいのだろうが、口の中に真っ白な愛情が残ったままではうまくしゃべることができない。
彼女はテーブルの上にあったティッシュを二枚とって、丁寧にそこに口の中のものを吐き出した。
「すごい量だね、もしかして溜めてた?」
「そ、そうですか。確かに先週から自分では処理してませんが」
「ね、もしかして、私と会うのがそんなに楽しみだったの?」
「ま、まあそりゃ……」
言い当てられると恥ずかしいが、確かに僕は彼女と交わることを楽しみにしていた。
彼女との体の語らいは、一週間分の一人の快感を捨ててでも楽しみたいものなのだった。
「まだ終わりじゃないよね?」
「もちろんです」
僕は彼女をソファへ導いた。
そして彼女を押し倒す。
ぼす、と音を立てて彼女の体はソファに沈み込んだ。
「これからが楽しみで、一週間も我慢したんですから」
「あら、口だけじゃ不満でしたか、先生」
「そんないじわる言わないでください」
僕はいじわるを言うわるい口を、僕の口でふさいだ。
彼女の口は少しだけしょっぱかった。
それが僕のせいなのだと思うと、無性にうれしくなって僕は彼女の体を抱きしめた。
彼女の体は、細く華奢で、今にも壊れそうなくらい、繊細だった。
吐息と舌の絡み合う音が僕と彼女を包み込む。
「っは……、いつもよりキス、激しい」
「さっき寂しかったって言ったでしょう?」
そう言って、僕はもう一度深く、しかし短く、キスをした。
そして、彼女のスカートをまくり上げて裾から手を入れ、ショーツを脱がせた。
彼女の中心に触れると、そこはもうすでに温かく、濡れていた。
「もしかして、キスだけで感じちゃったんですか?」
「ううん、あなたに触れた時から、ずっと感じてる」
「わるい人ですね」
僕はキスをしながら、彼女の深奥に指を差し入れた。
その温かさは僕の指を伝って体に染みわたっていった。
指がねっとりと愛情に包まれていく感覚。僕は、彼女と交わるときのこの感覚がとても好きだった。
「あ、ふぅ……、ん……」
淫靡な吐息。それが耳元で聞こえてくるのだから、僕の肉棒はまた欲望に支配されていく。
その欲望を吐き出すように、僕は彼女の中をかき乱した。
指だけでかき乱すことも、僕は好きだ。
それだけで乱れていく彼女を見るのが、とても。
くちゅりと音を立てながら、彼女が乱れていく。
髪が、服が、体が、徐々に解放されていくことが分かった。
「はやくあなたが欲しい」
彼女が僕の耳元でささやいた。
「僕も、優香さんが欲しい」
僕はポケットから取り出した、申し訳程度の理性を欲望にかぶせた。
そして、彼女の中へもぐりこませた。
それはすぐに奥深くまで到達し、僕たちつながった。
僕と彼女は、そうして体を、そして精神を一つにする。
「ああっ」
声を抑えようと思っても、どうしても吐息とともに声が漏れてしまう。
それは、小さな絶叫だった。
彼女の口からも、同じような絶叫が聞こえてきた。
それだけで僕は絶頂に達してしまいそうになった。
彼女と一つになるその感覚は、これまでの人生で感じてきたどんなものとも違った。
それは、どこまでも不純だが、どこまでも純粋なのだった。
もし、快感という概念にイデアがあるのだとしたら、きっとこれがそうなのだろうと、僕は本気で思う。
それくらい純粋な、快感なのだ。
「気持ちいいです」
僕が言うと、彼女も、
「私も」
と、言ってくれた。
その表情は、すべてを僕にゆだねようとしているかのように無防備で、危険な微笑みだった。
彼女はやっぱり、わるい女だ。
彼女は旦那さんとつながっているときにも、こんな風に愛らしい表情をするのだろうか。
もしそうなら、少し嫌だな。
体を慰めあうだけの僕たちのような関係の人間が抱いてはいけない感情なのかもしれないけれど、それは確かに、嫉妬だった。