「誰なんだよあいつ」
「同僚の板倉くん。元セフレ」
「…………」
「妬いた?」
「別に―」
「…………?」
「今日は帰る」
「ホテルじゃなかったの?」
「帰る」
「気にしてるの?」
「…………」
「ねぇってば」
「…………あーもう!!アンタのセフレは俺だけでいいから!なんであんな奴まで」
「ちょ、ちょっと、待って!元だっってば!」
「見たくない」
「…………あのさ、もうやめない?あたしたち。嫉妬なんて嫌だ」
「え?」
「あたしたちはセフレであって、それ以下でもそれ以上でもないんだよね」
「…………」
「じゃ、さようなら」
あたしは歩くんの話も聞かずに、地下鉄を目指して歩き出した。
…………
…………
…………
歩くんと会わなくなって、数週間が経つ。
なんだか他のセフレともセックスしなくなってと同じ時間。
あたしはいつの間にか、セックスをしなくなっていた。
どことなく、心のどこかが誰かを求めてる。
その気持ちをもったまま、あたしは買い物に近くのスーパーに来ていた。
かごに適当に商品を入れていく。
頭に浮かび続けているのは、歩くんがセックスしているときに見せる、
眉間にしわを寄せた表情。
そこでポタっと何かが落ちた。
それは涙。
涙だったのだ。
全身が
心全部が歩くんを求めているのだ。