マニアック

怪しい内科でお注射

「はぁ……」

体温計を見て、私はがっくりと項垂うなだれた。

仕事の関係上この街に引っ越してきた矢先だと言うのに、液晶パネルは何度見ても37.8度。

どうやら風邪をひいてしまったようだった。

こうなってしまっては仕方がない。

会社に休みの連絡を伝え、近隣の病院を探すことにした。

重だるい身体をなんとか起こして、最低限の身支度を整える。

保険証と財布、スマホをサコッシュに入れると、私は1番最寄りの病院へと歩き出した。

……が。

「マジか……」

思わず声が溢れた。

1番近いとされる病院は、かなりの坂道の上にあるようだった。

急な引越しだったとはいえ、自分のリサーチ不足に肩を落とす。

「仕方ない、なんとか歩くか……」

そう思い、少しだけ坂道を進む。

外の空気はじめっとしていて、熱のせいもあってかあっという間に全身が汗ばむ。

これは時間がかかるかも……と思った矢先に、少し古ぼけた看板を見つけた。

『内科 この脇道すぐ』

「……病院、あるじゃん」

私は縋るような気持ちで脇道に入る。

すると、小さな、診療所のような建物が目についた。

診察は受け付けてくれるのか……何よりこんなオンボロな病院、大丈夫なんだろうか。

そんな不安が頭を過ぎったが、薬だけでも貰えればなんとかなるだろうと考えた。何より、これ以上歩きたくなかった。

病院の待合室には誰もおらず、とりあえず受付の窓口を覗いてみる。扉の音を聞いたのか、想像以上に若い医師が顔を出した。

(えっ、ここ……この先生1人なの……?)

いよいよもって怪しく感じたが、熱のせいで頭もうまくまわらない。

そんな私の様子を見て、医師はすぐに診察室へ案内してくれた。

「熱が高そうですね、どうぞここへ横になってください。少しは楽でしょう?」

怪しさとは裏腹に、医師の口調はとても丁寧だった。

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