「あ、終わりですか?お疲れ様です!」
「お疲れ様ー、今日の夜は水野さんなんだね、よろしくね。もう一人誰だっけ?」
「谷田さんです」
「二人ってよく一緒に夜はいるよねー、じゃあ、頑張って!」
先輩の山本千佳が上がるのを見送って、水野マサミは更衣室で準備を始めた。
更衣室といっても、控室の隅にあるカーテンで囲われた小さなスペースだ。
厚手のカーテンで簡単なつくりではあるが、人影が透けることもなく、それなりに優秀な更衣室として使われている。
バイト開始まであと15分ほど。
ゆっくり準備をしても、問題なく間に合う時間だ。
水野マサミは、来月で二年目になるコンビニのアルバイト店員だ。
時給がいいから、という理由で基本的には夜入ることが多い。
仕事自体は向いていたのか、そこまで苦労することもなく一年目が終わろうとしている。
「こんばんはー、っと、水野さん、いる?」
ガチャ、と扉が開く音がして、人の気配が控室に入ってくる。
その声に、マサミはどきりとした。
男性の声は明るく、元気が良い。
がさがさと荷物をロッカーにしまう音がして、それから、カチャ、と鍵が閉まる音――。
バイトが始まる時間になるまでは、基本的に店舗を他の店員が離れることはない。
だから時間になるまでのあと15分は、ここは二人だけの空間になるのだ。
「水野さん、だよね?間違えたら悪いからさ、返事してくれる?」
「……はい、そうです」
心臓がドキドキする。
シフトを見たときから、相手が谷田トオルだとわかっていたはずなのに――いざその時になると、やはり緊張してしまう。
……いや、緊張というよりも、興奮かもしれない。
「だよね、良かった。じゃあ、出てきてくれる?」
トオルにそう言われ、マサミはゆっくりと、更衣室のカーテンを開いた。
谷田トオルは、マサミよりも少し年上の男性店員だ。
アルバイトのマサミとは違い、本社からたまにやってきては店舗に立つ、少し変わった勤務の仕方をしている。
そんな彼と初めて一緒に店舗に立ったのは、大体半年も前のことだろうか――。
その日から、マサミとトオルが二人で夜のシフトに入るとき、あることが行われる。
………
………
………
誰にもバレてはいけない、二人だけの時間。
「久しぶりだね、二人でシフトはいるのってさ」
「そう、ですね」
更衣室から出たマサミは、足元を見ながらそう答えた。
恥ずかしくて、トオルの方を見ることが出来ないのだ。
「じゃあ今日も準備しよっか、おいで?」
手で促され、マサミはトオルのもとへと近付いていく。
更衣室から出たマサミは、上下ともに制服をまとっていない、下着姿の状態だった。
「今日はこれ、つけてみようか」
トオルの指につままれているのは、小さな銀色のクリップだった。
それが二つ、マサミの目の前に差し出される。
「……はい、」
こくり、とマサミの喉が上下に動く。
トオルの目の前で、マサミはブラジャーをゆっくりと上にずらした。
白い胸と、ツンととがった赤い乳首が空気にさらされる――それをトオルは、薄く笑いながら眺めていた。
それが始まったのは、初めて二人でシフトに入った夜のこと。
珍しく全く客が来ることがない夜で――なんとなく、そんな雰囲気になってレジの後ろで身体に触れあった――その日から、二人のシフトはそんな時間になっているのだ。