マニアック

流れ行く泡沫のように…

人には多かれ少なかれ、必ず何かしらの隠し事を背負っている。

テレビなどで常に満面の笑みを浮かべてしとやかに言葉を選びながら喋る女優やアイドルなどが、その美しく愛嬌のある顔と華やかな衣装からは想像のつかないような、幼少期の貧乏や複雑な家庭環境などを心の内に隠しながら日々楽でない仕事をしているのは決して珍しい事では無い。

今までは好青年で文武ともに優れてエリートの階段を順調に登っていた、近所からもすこぶる評判の良かった男が、ある日の昼下りに突然通り魔になって、身元を詳しく調べて行くと、その男の様々な手記から常に周りからの尋常でない将来の期待などに精神を酷く傷つけ自暴自棄になっていた事が知れる。

美由紀みゆきもまた然り、ある一つの、絶対に口外の許されぬ秘密を持っているのだった。

………

………

………

昨年の春、美由紀は中学を卒業して市内の難関校であるS高校に入学した。

S高校を選んだのは特に理由はなかったが、元々勉強が得意であったことから周りに勧められて、美由紀自身もどこかへ行きたいという希望もなかったので言われるがままに受験したのであった。

中学ではバスケ部に入っていたが、高校からはのんびりと過ごしたかったので部活には入らなかった。

特に何事もなく順調に日は過ぎて行った。

間もなく夏休みに入った。

夏休みが始まってちょうど一週間が経った日の事、美由紀の両親はともに出張で昨夜から東京に赴いており、家には美由紀と、美由紀より四つ年上の兄である圭介の二人きりであった。

圭介は市内のある教育大学に通っていた。

中学の数学の教師になることを目指しているのだった。

その日二人は、各々の部屋でそれぞれ勉強をしていた。

十一時を過ぎて、美由紀は数学の宿題である問題集をとじて少し伸びをすると、窓外に広がる陳腐な景色を眺めてかすんだ目を瞬いて焦点を合わした。

空は晴れていた。

部屋を出て階段を降り、誰もいない静かな台所に行くと二人分の昼ご飯を作るために準備をはじめた。

両親は共働きで仕事柄出張も少なくなかったので、圭介が小学生の頃までは祖父母の家に預けられていたが、中学に入ってからは全て圭介が面倒を見るようになり、二人で留守番をすることが多くなったのだが、美由紀は兄だけに全て任せてはいけないと思って出来る範囲で積極的に家事を手伝うようになった。

そして色々と試していく内に圭介より美由紀の方が料理が上手いことがわかって、それ以来両親のいない日の朝昼晩のご飯は美由紀が担当する事になった。

この日の昼ご飯はチャーハンであった。

出来上がると綺麗に皿に盛り付けて、圭介を呼び出すため二階に上がって行った。

部屋の前まで来ると、不図驚かしてやろうと思ってわざとドアを勢いよく開けて中に入った。

「ご飯出来たよ」

こう言って圭介を視界に捉えた時、唖然として黙り込んでしまった。

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