丁度16時になって、姉が帰ってきた。
しかし、部屋の外から聞こえる足音は、二重に私の耳に聞こえた。
「誰だろう?友達かな?」
姉と、正体不明の足音は、階段を登ってきて、会話一つせずに、私の部屋の前を通って隣の姉の部屋へ入って行った。
私は全裸のままで、窓から離れて隣の姉の部屋の壁に耳を押し当て、もう一人の足音の正体を突き止めようとした。
ところが一向に姉ともう一人は会話をする事なく、荷物を降ろしたり窓を開ける音をたてるだけで、全く沈黙であった。
しかし、暫くして、何か姉の部屋から聞き慣れぬ音がした。
何やら水っぽい音が聞こえる。
「…ピチャ…ピチャ…ピチャ…んんッ…ピチャ…」
それは私の耳に、決して聞き慣れぬ音ではなかった。
毎日毎日、みんなの居ない家の、私の部屋の布団の中で、それを聞いていた。
私の姉は、その時、私の知らぬ誰かと、舌を絡ませてキスをしていた。
それは部屋から聞こえる音だけでも、深く、とろけるように甘い、愛のキスである事が容易に知れた。
私は急に恥ずかしくなった。
(私は今ここに居るんですけど…まさか私が家に居る事に気付いていないの?
んな訳!だって玄関には私の、ボロボロの、爪先の少しばかり捲れた黒い靴があるはず…それともわかっててやってるのかしら?)
当然だけれども、こんな事は初めてであった。
私は困惑と好奇心と恥ずかしさによって、不思議な笑みを浮かべていた。
二人が、こちら側の壁に接するベッドに倒れる音がした。
(いよいよ始まる…!)
私は緊張した心持ちで壁に耳を当て、バクバクなる自分の心臓の音を無視して、隣の部屋で行われている情事の音を聞いた。
姉は小さな、細い糸の様な喘ぎ声をして、ベッドの上で体をくねらせている。
おっぱいを揉まれているのだろうか?
姉の部屋から聞こえるのは、彼女の微かな喘ぎ声と男の愛撫による衣擦れだけであった。
しかし、私のその方面に熟達した頭脳は、それだけの情報だけで、二人の濃密に絡み合う肉体から滴る汗を想像した。
が、流石に姉の愛する男の輪郭は、全くぼんやりしていた。
一体どんな人なんだろう?身長は高いのかしら?そもそも姉と同い年なのだろうか?
「あんッ!んんん?ッ、んんん!…気持ち良い」
姉の甘美なよがり声が聞こえた。
「健くん…そこ、もっと舐めて」
「声出しちゃ駄目だよ、居るんだろ、隣に」
男の声は、小声ではあったものの、私の心を魅了するだけの力があった。