「知ってますね、ありがとうございます。では手帳拝見します」
「‥‥‥っ好きにしてくれ‥‥‥」
「では降参ですね?」
「質問はもういらない‥‥‥」
「降参、しますか?」
しつこいな。これだからむっつりエリートなんだから。
「失礼ですね。むっつりとは」
「心の中を読まんでいいわ!!」
「ははっ。面白い人ですね、和田さんは」
会社では見ない笑顔だ。
こういう笑い方するんだ。
可愛いじゃん。
………
………
だけど、なんでここまでたかが派遣社員のあたしに絡むのかな。
むしゃくしゃしてるから、上司を
いやいやいや、そんな面倒なことしなさそう。
「!和田さん、危ない!」
「ん?」
ものすごいスピードを出している自転車に気づいた原島。
あたしの手を引っ張って、気が付けば原島の胸にすっぽりと埋まっていた。
「わ、悪かった。ありがとう」
「‥‥‥」
「原島?」
「ごめんなさい、無理です。今から何も言わずについてきてください」
「へ?へ?」
「それで何もないのでしたら、合意とみなします」
「??」
あたしはこの時にしっかり確認しておけばよかった。
だけどそんな余裕を持つことができないくらい、あたしはすっかり原島スマイルに犯されていたのだ。
「いいですか?今からホテルに泊まります」
「‥‥‥お坊ちゃまだなーほんとつくづく思うよ」
「鈍感だなーほんとつくづく思うな」
「マネするな!!」
「はいはい、黙ってタクシー乗ってくれ」
「!」
何!?こいついきなりタメ語ってか命令系だぞ!?
「俺、電車代ないから自分の借りてるホテルに行くから、目隠ししてて」
「ホテルなら、それくらいあたしだって出す!!」
「あほ。おとなしくしててくれよ」
「アンタ誰に向かって―‥‥‥」
手を引かれて、原島がいた場所の近くのホテルに入る。
周囲にはやはり高そうなブランド物のスーツを着ている人が多い。
いつだったか常務が「エリートにはエリートでしかわからないプライドの世界があるんだ」と熱弁してたな。
エレベーターにはおとなしく乗ろうと心の中で決めていた。
「あ、でも、聞きたいことがあー‥‥‥」
喋りだそうとすれば、いきなりエレベーターの中でディープキスをされた。
あのさ、あたし誰かとキスとかしたことないんですが!!!!
何気にキス処女を突然卒業された!!!