「俺のことは岩出じゃなくて、弘樹って名前で呼んでよ」
岩出さんの左手の薬指には指輪がしてあった。
でも、私は、
「この人、イケる」
と確信した。
大野さんとはまだ関係が続いていたが、相変わらずキャバクラ通いで連絡がとりづらい
状態が続いていた。
セックスもしていない・・・。
私はその間に岩出さんに近づく機会を待っていた。
そんな折、岩出さんがまた昔の部署仲間と顔を出した。
「弘樹さん、お久しぶりです」
「こんな大勢で押しかけちゃってごめんな」
「いいえ、ありがとうございます」
と言いながら、岩出さんの耳元に寄って話しかけた。
「私、今日は11時にお店上げるんだけど、弘樹さんは何時頃までお店にいますか?」
「終電に間に合うようには帰るよ」
「私、車で来ているので・・・、弘樹さん、一緒に帰りませんか?」
「えっ?いいの?ってか同じ方向?」
「はい、さっきそんな会話してたから」
「じゃあ、お願いしちゃおうかな」
このいいタイミングの時に邪魔するかのように携帯メールが入った。
大野さんからだ。
こんな時に何の用?
『今日わが社の連中が店に来てない?』
『はい、大勢来てますよ』
『やっぱりな。行かなくてよかったよ。美香ちゃん終わったらどうですか?』
『明日の朝早いので、今日は帰ります』
こうメールの返事を返して、私は大野さんの誘いを断った。
「いや~、まさか美香ちゃんとこうして一緒に帰れるなんて光栄だな~」
帰りの車中、岩出さんはずっとニヤけていた。
あれっ?この人・・・。
もっとクールな印象だったけど・・・。
私の見当違いだった?
ひょっとして、Mっ気があるのかな?
「実は~、私も弘樹さんとお話したいな~と思っていたんですよ。私、タイプだったし」
「ええっ、ホント?」
ニヤけた表情で私の髪に触れ、
「今度、夕飯でも食べに行こうよ」
と約束してくれた。