だって、求められたのが身体だけであっても、嬉しいとすら思ってしまったのだから。
重たい身体に鞭を打ち、上半身を起こす。
そのまま音を立てないように、と背を向けた瞬間。
「どこへ行くつもりだ」
背中を覆うように、身体をすっぽりと抱き込まれた。
「お、起きていたんですか……」
「いえ、素行の悪い後輩が逃げる雰囲気を察したので」
耳元で囁く声は子宮に響く。
寝起きで掠れた声と甘い吐息が肌を撫でるから、ゾクゾクするのが止まらない。
「そ、こう?」
――どうしよう、怒られているのに……バックハグされているの、嬉しい……。
ぎゅうぎゅうと抱き締めてくる裏海先輩は、きっと不機嫌な顔をしている。
でも、ぐりぐりと私の肩口で頭を擦り付けてくる行動は可愛く思えてしまった。
なにより。
憧れて止まない彼からのハグに、胸が高ならないわけがない。
「あのぅ……何か誤解があると思うのですが……」
「裏アカだのママ活だの、
「そ、その場のノリですよ……実際にやるわけないじゃないですかぁ……」
「……本当に?」
身体を離し、ベッドの上で対面する。
寝起きの、不機嫌さを隠しもしない気怠げな表情ですら絵になる。やっぱり裏海先輩はかっこいい。
「人が質問している時に何をニヤけている」
思わずほぅ、と見惚れていた私を
(こ、怖……! 私、本当にこの人に抱かれたんだよね……?!)
「か、可愛いって……言われたかったの……」
結局、裏海先輩の視線に耐えきる根性もない私は、引かれる覚悟で白状した。
――冗談でも、お世辞でもいい。ただひたすら、他人から『可愛い』って言われたかったのだと。
「…………」
質問に答えたのに黙りこくるなんて、裏海先輩はやっぱり意地悪だ。
「……つまり、『可愛い』と言ってくれる相手なら『誰でもいい』と?」
海より深いため息の後、裏海先輩は頭を抱える。
一瞬「こいつマジでバカだな」って顔をしていたことを、私は見逃さない。
「だって! だって! 仕方がないじゃないですか! 私モテないんだもん!
飲み会の席でのお世辞くらいしか言ってもらえないんだもん! お金払ってでも可愛いって言われて、いっぱい抱き締めてくれる相手が欲しかったの!」
両目から涙が溢れた。
ずっとずっと我慢していたのに。
一度決壊してしまえば、
「泣……?! あ、ちょ……落ち着いて」……!
目を丸くして、息を詰めた裏海先輩を初めてみた。
わかりやすい動揺は何故か
「どうせ! 裏海先輩みたいなモテる人に私の気持ちなんてわかんないですよ!」
「……榊さんがモテないというのは嘘でしょう?」
「はぁ?! 私の話聞いてました?! 誰にも相手にされず23年経ちましたが!?」
「は?」
「だ、だから! 恋人いない歴23年です! 昨日まで、しょ、処女です!」
「……っ?! ほ、本当に?」
「この期に及んでなんで疑うんですかぁ!」
なぜ、私は。
こんなに裏海先輩から信用がないのだ。
もういやだ、と泣き崩れそうになる私を、何を思ったのか、彼は抱き止め、そして
「ん、ぅ……ん……っ」