「……ッ!!」
だが痴漢は私を逃してなどくれない。
ブチブチ……と嫌な音がしたと思った瞬間、太ももが外気に触れた。
これ、もしかしてタイツを破られた!?
私は周囲の迷惑も顧みず、取っ手を握っていた手を乗客たちの隙間に捩じ込んで、痴漢の腕をガッと握った。
これで大抵の痴漢は逃げていくはず――。
私は今までの経験からそう思ったが、痴漢は逃げていくどころか、ビクともせずにただ腕を掴まれたままでいる。
「や……!?」
その上、あろうことかもう一方の手で、私の上着の裾を背中側からめくり始めた。
「や、やめ」
「……?」
ドア越しに、先輩が私に向ける笑顔が見える。
痴漢されていることを知られたら、可哀想な子だと気を遣われて、もう笑みを見せてくれなくなるかもしれない。
叫び声を上げようと開いた唇が、先輩の視線に
揺れる車内で不安定な姿勢になるのは怖かったが、私は両腕を背後に回して痴漢の手を掴んだ。
「……っ!?」
驚愕に身が
貧血のときのように視野が狭くなって、冷たい手に頭を掴まれたみたいにゾッとした。
三本目の手が、私の胸に触れたからだ。
ぎぎ、と壊れた人形みたいにぎこちなく、己の胸元を見やる。
乗客の体がちょうど盾になり、車両間ドアの窓からは私の首から下は見えない。
だから先輩に見られることはない――、などと半ば逃避のように判断した。
「ひぃ……っ」
噛み締めた唇の間から引き吊れた
痴漢の腕を掴んでいたはずの両手は、いつの間にか身動きできないように押さえつけられていた。
四本目の腕が伸びてきて、私のシャツを左右から掴む。
ブチ、ブチ、ブチ……とボタンごと自分のシャツが引きちぎられる様を、信じられない思いで見つめることしかできない。
背中に潜り込んでいた二本目の腕が、私のブラジャーのホックを外したようだった。
窮屈に押し込められていた、人より少し大きめな胸がプルンッ!と勢いよく
「い、いや……っ」
小さく呟くも、四本の腕は
胸を剥き出しにされた私の姿に気づいているはずの、車両間ドアの前にいる乗客も、反対側に立っている乗客も、正面に立っている乗客も、背後に立っている乗客も、誰一人ぎょっとして私を見たりしない。
誰も彼も、好奇と色欲の混じった気持ちの悪い目で私を見て、にやにやと笑っていた。
こんなの異常だ、おかしい……!
私は思わず隣の車両の先輩を仰ぎ見た。
先輩は相変わらず、のんきな笑みを浮かべて私を見ている。
どうしよう、色んな人に痴漢されてるなんて知られたくないよ……!
泣きそうになりながらも、私はドアを叩いて先輩に助けを求めるか否かを、この期に及んで
その間にも私の胸を弄ぶ痴漢の手は、やわらかな膨らみをぐにぐにと揉みしだき、指と指の隙間にはさんだ乳首を摘み上げる。
「い、いや……触らないで……っ」
このままじゃ、何をされるか分からない。
私は意を決して、車両間ドアの窓ごしに、先輩に向かって「助けて」と叫ぼうとして――。