マニアック

妄想女子とリアル体験

 結果的に撮影の進行状況はどうなったのかというと――

それはもう、憎らしい程にスムーズに進んだ。

(あああ! そんなとこ触らないでぇえええ)

 心でどんなに悲鳴を上げても、

私は指示された通りポーズをとり、動き、男優役と肌を重ねる。

(やば……近い、近いよぉ!)

 局部を見えないように工夫されても、

はだけた服からは下着が見えているわけで、

首筋のあたりに息を吹きかけられたときはたまらず身じろいてしまう。

 そして、私自身、相手役になる男性陣の局部につい視線がいきがちで……。

(あれって、すこし膨らんでいるんじゃ……
こ、このまま襲われたらどうしよう……)

 つい余計なことばかり妄想してしまう。

 小さく漏らした声を、由紀さんや撮影班の人は可愛いと褒めてくれたけれど

絶対変な顔をしてしまっていたと思う。

 ――しかも由紀さんまで参加するとか聞いてないよぉ!

 社員の伝手で用意されたらしい男優たちは恰好良い人達だったけれど、

正直由紀さんは群を抜いている。

 なんとか全てのシーンが終わったとき、

どっと押し寄せた疲労は肉体的なものより心に来るものだった。

「玲愛ちゃんお疲れ様! はい、これ」

「ありがとうございます。
て、もう十二時間も撮影していたんですね! 急いで帰らなきゃ!」

 お茶を受け取り、時計を見て驚く。

「集中すると時間なんか忘れちゃうよねぇ。
大丈夫、家までちゃんと送ってあげる」

「そ、そんな悪いですよ」

「だーめ。ここはお兄さんの言うことちゃんと聞いてね」

 由紀さんの少し強引な様子に小首を傾げると、耳元で囁かれる。

「撮影中、『食ってくれ』って言わんばかりの顔してたよ。玲愛ちゃん」

「な……っ! そ、それは、演技でっ!」

「本当に? 玲愛ちゃんの困り顔って凄くそそるんだけど、
そのまま外に出たら危険だと思うんだよね。あの連中含めて」

 由紀さんはちらりと視線を休憩スペースの方へよこす。

そこには撮影に協力した男優さん達がいて、

あちらはあちらで何か話し込んでいた。

「玲愛ちゃんお持ち帰りされちゃうかも」

 否定できず、固まる。

何故なら、撮影中に「この後どう?」と耳元で囁いてきた人もいたから。

「……私って欲求不満なのかな」

「――は?」

 その瞬間、私達の空気がフリーズした。

(やば! 声に出てた?)

「あ、そ、その! き、聞かなかったことにしてください! か、帰ります!」

 慌てて顔をそらし、逃げようとした時だ。

 由紀さんが「待って」と私の腕を掴む。そして、耳元で囁いた。

「……確かに玲愛ちゃん『ヤりたい』って顔してる」

「え! あ、いや! そ、その!」

 咄嗟に「違う!」と否定できない愚かさを由紀さんは指摘するように笑った。

「あんなもの欲しそうな顔で男の身体を眺めちゃったら……ねぇ? 
アタシだったらしてあげられるかもよ? 玲愛ちゃんが望んでいること」

 熱をはらんだ視線が絡み合った時、

散々膨らまされた私の中の微熱がじわじわと身体に廻る。

「……お願いします」

 握られた手に力を籠める。それが答えとなり、

私は由紀さんに連れられるまま事務所を後にした。

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