恋のはじまり

おふろでばったり

 私、由梨菜の実家は元下宿を営んでいた。

 一回り以上年上の幸彦叔父さんは四年ほどうちから大学へ通っていて、小学生の私は彼によく遊んでもらっていた。

 その関係はずっと続いていたわけではなくて、私の大学受験を目前に両親が幸彦叔父さんに家庭教師を頼んだことで久しぶりに再会。

 その二年後、つまり、私が二十歳になった今。今度は私が幸彦さんのアパートに頻繁に遊びに行っていたりする。

「え、嘘ぉ!」

 大学のレポート作成を手伝ってもらおうと、私は今日も幸彦さんちに行く予定、だったのだが。

「うわー……こんな強くなる?」

 コンビニにちょっと寄り道をしたところ、しとしとと降り続いていた雨は本降りに。

 それも横殴りの勢いだ。

「しかも……傘盗まれてるし」

 折りたたみ傘を持ち歩く習慣はないし、コンビニ傘は売り切れている。

 最悪オブ最悪である。

 タクシーを呼ぶか、とも考えたが幸彦さん宅は見える距離。

 私はお金のない大学生なのであまり長い時間悩まず、意を決して雨の中走った。

「はぁ、はぁ……なんとか、ついた……」

 全身びしょぬれになったけれど、カバンの中身は無事な様子。

 とりあえず濡れたらまずいものから救出して、私はその場でずぶ濡れの服を脱いだ。

(……人の家で脱ぐのも抵抗感あるけど……)

 びしょ濡れのまま家の中を歩かれるよりは良いだろうと、ほとんど下着姿になったときだ。

 ――ガチャっ!

「え!」

 玄関の鍵が開錠された。

 そして私の静止も空しく、扉が明けられる。

「うぉっ! びびったぁ……!」

 そこには私よりもずぶ濡れの幸彦さんがいた。

「お、おかえりなさい……」

「ただいま、って! ここで脱ぐなよ! 俺じゃなかったらどうするつもりだ!」

「ゆ、幸彦さん以外が入ってくることってあるんですか?」

「いやないけど! 防犯上ダメだろ、女のコが玄関近くで下着姿なんて!」

 廊下を汚してしまうことに躊躇らっていた私の手を引き、お風呂場へ向かう。

「ほら! ちゃんと温まってから出てきなさい」

 そのまま幸彦さんは出ていこうとしたので、私はあわててその手を掴んだ。

「ダメだよ! 幸彦さんのがずぶ濡れじゃん!」

「いや俺は大丈夫だから。男だし」

「こういうのに男女は関係ないでしょ? てか私より風邪ひきやすいじゃん!」

 押し問答もつかの間、幸彦さんは連続でくしゃみをする。

 私は「ほら言わんこっちゃない」と呆れてお風呂の栓をした。

「ね? 交代で入ろ?」

 私の提案に幸彦さんは納得していない表情を浮かべ……

「よし。真ん中を取ろう」と手を打った。

「真ん中……?」

「一緒に入れば万事解決」

「よし、決まり。」

 と、幸彦さんは自身の服をひっつかんで剥がすように脱いだ。

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