「いや、まさかとは思ってたけど、まだ好きなの!?」
「ちょ、お前声でかいって!」
悠斗の大きな声に続いて、健くんの焦ったような声が聞こえてきた。
何やら面白そうな話ではないか。
私はそう思って、悠斗の部屋がある方の壁に耳を付けて、会話に耳を澄ませた。
いつも生活している分には、大きな音でも出さないと互いの部屋の声は聞こえないが、こうして耳を澄ませば、結構細かく会話は聞こえてくるのだ。
「おまえ、マジで姉ちゃん好きなの?」
「う、うん」
姉ちゃん?あれ、健くんってお姉ちゃんいたっけ。
もしかして、私が知らないだけでいるのかな?
そんな疑問を抱きながらも、私はその会話に意識を集中させた。
「え、でもあれだぜ?そりゃ顔は悪くないけどさ、今日だって、あんなテキトーなカッコしてるし、がさつなとこあるぜ?」
「そんなの関係ないよ」
「えー、恋は盲目って奴かな……」
いやいや、悠斗よ。人の姉に向かってなんてことを言っているんだ。
失礼な弟には、後程お叱りを入れないといけない。
私は憤慨しつつも、やはり話に意識を戻した。健くんみたいなイケメンの姉弟ラブなんて、面白くないはずがない。
盛大な勘違いをしていることには気づく由もない私は、そんなことを思っていた。
「まあ、やさしいしいいところはあると思うけど、でもなぁ」
「そりゃ、お前にとっては家族だから、俺みたいに思うのも難しいとは思うよ」
待て待て。雲行きがおかしいぞ。これは健くんの姉弟ラブの話じゃなかったのか?
健くん視点で、「お前にとっての家族」っていうんだから、つまりそれは……。
悠斗の姉ちゃん。私ってことになるのか?
いやいや、そんなはずない。
「でもさ、咲さんすごくかわいいし、やさしいし、気遣いもできるし、魅力的だし、俺、この家に初めて来たときからいいなー、ってずっと思ってたんだぜ?」
はい。個人名が登場しました。
私じゃん、え、私あんなイケメン男子に好かれてるってこと!?
困惑。
じゃあ私ワンチャンある?しかも聞いてる感じ彼女はいない感じだし、健くんのオンリーワンになれる?
「咲さんって彼氏とかいないのかな……」
「たぶんいないと思うけど」
いないですよ!私別にモテないから!
しかも、その発言で私が恋愛対象として、健くんから好意を抱かれていることも確定してしまった。
突然来たモテ期に私は困惑を隠せなかった。
「お前が彼氏いるの知らないだけ、とかじゃないだろうな?」
「んー、彼氏はいないと思うんだけど……」
その時私は、あまりの出来事に、突然ムラムラし始めてしまった。
だって、ワンチャンもありえないと思っていたイケメンに好かれていたのである。
あまりの出来事に、頭がショートしてしまうのも仕方ないことだとは思う。
そこで私は、シコシコとオナニーを始めてしまったのだ。
隣に客人がいるにも関わらず、だ。
なぜそんなに興奮してしまったのかは自分でもわからなかったが、とにかくその時はいじらずにはいられなかった。
私は、壁から耳を離し、はいていたショートパンツとショーツを脱ぎ捨てた。そして、自分のクリトリスをいじりはじめた。
こんな壁際では、向こうに私の声が聞こえてしまうかもしれない。
そういう理性はかろうじて残っていたので、私はベッドに戻って、そこで無心に指を動かした。
まだ隣では健くんの恋の話に花が咲いているようだったが、私はそんなことも気にならないくらい、快感に浸っていた。
もし、今私が動かしている指が、健くんの指だったら。
そんな妄想が現実になるかもしれない可能性が、すぐそこにある。
そう思うと、オナニーはめちゃくちゃはかどった。健くんのあそこは大きいのだろうか。
もし付き合ったりしたら、私の初体験は健くんになるのだろうか。
妄想もどんどん膨らんでいった。
声を抑えるのだけでも必死だったが、そんなとき、たまたま聞こえてきた会話が私をいきなり現実に引き戻した。
「え、じゃあ今から告白して来いよ!」
「今から?」
「うん、姉ちゃんも今隣にいると思うし」
「で、でも……」
「きっと大丈夫だと思うし」
「この部屋で待っててやるからさ」
「じゃ、じゃあ……」
ちょ、ちょっと待って、今からくるの?今私下はいてない。
焦って思考が止まってしまった私。
「咲さん、今良いですか」
「あ、ちょ、ま」
「入りますよ」
「え、えええ!」
なぜかこんな時だけめちゃくちゃ積極的だった健くん。
ガチャ。
ドアが開いた瞬間、時間が止まった。