恋のはじまり

幼馴染との約束…

小さい頃の約束って、覚えていますか?

少なくともあたし、もりあおいは覚えています。

本当に大好きな人との約束。

将来お互いに夢を叶えよう。

そして、結婚して楽しい夫婦になって、死ぬまで一緒にいよう。

…あたしだけかな。

覚えているのは。

でも、忘れないよ。

どんなに夢がかなった後だとしても…

ね、つばさちゃん。

………

………

………

「いらっしゃいませー!」

ここは小さなケーキ屋の “パルム堂”。

お客様は多くいるわけではないが、リピータ―が多くて、楽しく営んでいる。

「こんにちはー、あおいちゃん」

「あ、こんにちはー、こずえのばあちゃん!」

「今日も一押しのショートケーキをくださいな」

「はいっ!」

朝はまだ8時。

しかしリピータ―は最初のケーキが焼けるころ合いのこの時間帯にやってくる。

鼻歌を歌いながら、あおいは小さなピンク色の箱に詰めている。

「おや、今日はまた違う曲だねぇ」

「気づきました?」

「当たり前だよー。あおいちゃんのファン歴は長いんだからねー」

「ありがとねー!ではでは梢ばあちゃん、今日はあたしのお給料日だから、ファン1号ってことで100円おまけ!!」

「あらーうれしいわぁ」

あおいにとってこの時間が幸せなのだ。

大好きな仕事をして、大好きな近所の人たちと会話する。

そして鼻歌は決まったアーティストにこだわって歌う。

「おい森。早く手伝え」

「あーはいはい。本当に気が早いんだから村中さんはー」

「あと10分は客来ないだろ。新作考えるぞ」

「はーい!」

こうしてあおいは、夢だったパティシエになって働いている。

あとの叶えるべく夢は、結婚のみ。

けれども…今では会えずにいる。

会えるのは、年に一回のみ。

「さっきの鼻歌」

「はい?」

仲野翼なかのつばさが出した曲だろ」

「あ、わかります?」

「今朝のニュース番組でやってた。人気俳優の仲野翼が出した新曲だって」

そう、あおいと結婚しようと約束していたのは、人気俳優兼歌手の、仲野翼。

昔からの付き合いで、互いに好き同士ではあるが、互いに気持ちを確かめられずにいる。

今更、話なんかできない。

「とっととくっつけ」

「なに!?村中さんにはわかりませんよーだ」

「…」

「?」

「相変わらず無防備だな」

「何がですか?」

「こっちの話。ほら。新作のイラストからやんぞ」

「了解です!」

実はあおいと一緒に働く村中優希は、一途なあおいに惹かれていた。

他人に興味などない優希だが、あおいだけは手放せないでいる。

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