私は突然の事で言葉が出なかった。
恐ろしく緊張した
突然彼は私を自分の体に抱き寄せ、上から覆い被さるようにキスをした。
私は目を見開いたままぼんやりと彼の唇に身を委ねた。
彼は自分の舌を、私の唇を強引に開けて口の中に食い込ませた。
私は不思議な程何の抵抗もせずに彼の激しく
どれだけの時間が経ったであろうか?彼は漸く私の唇から離れた。
彼は白く太い腕で自分の口を拭いた。
そしてもう一度私を懐に抱き寄せた。
私は彼の汗に濡れたTシャツに頬をくっつけていると、やっと我に返って、慌てて彼を突き放した。
彼は全く微動だにしなかったけれども容易に懐から逃げる事ができた。
飢えた獣の熱い息を吹きかけられた沈黙が、2人の間を漂っていた。
「何でこんなことするの?」
私は自分よりも一回り大きい彼に恐る恐る聞いた。
「井上さん、僕は井上さんの事が好きです」
私は唾を飲んだ。
「好きだったら何をしても良いの?あなたはもうすぐで17歳よね、やって良い事と悪い事の区別ぐらいつくでしょう」
「すいません。でも、井上さんを見ていると、その、とても悲しくなって来たんです」
「は?悲しい?」
「何と言うか、その、井上さんの目を見ると、何かにじっと耐えているような、何と言うか、助けを求めているような気がして、その、」
彼は俯向いた。
牧野君、あなたに私の何がわかるの?何かにじっと耐えている?助けを求めている?だから何?あなたには何が見えてるの?
「井上さん!僕は井上さんの為なら何でもします!だから正直に話して下さい。今、幸せですか?」
彼は再び顔を上げると私に迫って来てこう聞いた。
私は彼の真剣な目を見た。
心がゆらりゆらりと彼の方へ引き寄せられて行った。
けれども何とか理性で踏ん張って私は冷淡にこう言った。
「幸せよ。だから2度と私にそんな口を利かないで、わかった?私にとってあなたは迷惑なの」
彼の表情は暗くなった。
私は彼に背を向けて帰ろうとすると、又もや腕を掴まれ、引き戻された。
そして私を再び抱き寄せると
「もう自分に嘘を付かないで下さい。何でそんなに我慢するのですか?正直になりましょう。僕はわかってます、井上さん、今、誰かにすがり付きたいんじゃないですか?あなただけが我慢する必要はないでしょう。井上さん、今、幸せですか?」
見上げると彼は泣いていた。
涙が1筋2筋、頬を伝って首元まで流れ落ちた。
私は矢庭に何とも言い知れぬ悲しさに襲われて、心がポッカリと穴が空いたような空虚な感じがして、堪らず彼の懐の中で泣いてしまった。
彼はそんな私を力強く抱き締めた。