彼と初めて訪れたレストランは、おしゃれな普通のレストランだった。
ファミレスというほどリーズナブルなレストランではないけれど、高級というわけでもなかった。
初めて会うのには、とてもちょうどいいと思った。
アプリで出会った初めての人、木口瞬さん。
私は向かいに座る彼のことを、改めて見つめた。
彼はメッセージでやり取りしているときに感じた清潔感に相違ない印象を醸し出していた。
とても好感の持てる人だった。
この人が今日私を乱れさせるのだと思うと、それだけでショーツが濡れてしまうくらいに興奮してしまった。
食事の間、私は意識もそぞろではあったものの、彼との会話を楽しみつつ、料理を口に運んだ。
その料理は店の雰囲気にそぐわぬクオリティだったことは、記憶の片隅で覚えている。
「今日から早速、しますよね?」
食事を終えた後、彼は私にそう聞いてきた。
周りに聞こえないようにするためだろうか、彼は少し声を落としていた。
「そう、ですね」
私も彼につられて小さな声でそうつぶやいた。
じわり、とまた私の股間に熱を帯びた液体が染み出してくるのを感じた。
「じゃあ、行きましょうか」
私は彼に連れられて、ホテル街の方へと足を向けた。
「今日はどんなことをしたいですか?いくつか道具は持って来たんですが……」
「ど、どんなものですか?」
これまでの会話の中でも、何度かそういう話を挟んでいた。
私はずっと、刺激的なセックスをしたい、とは思っていたが、具体的にどういうことがしたいのかを考えていたわけではなかった。
もともとそういう方面に詳しいわけでもないし、少し調べた程度のことしか知らない。
だから、今日彼に「調教」されるのはとても楽しみだったわけである。
「ボールギャグとか、足枷、手枷、縄、あたりですね。今日いきなり激しいことをするのもダメかな、と思ったので。あ、もちろんバイブとかディルドとかもありますよ」
彼はさらり、とそんなことを言った。
ボールギャグというのがどんなものなのか、私はいまいちイメージできなかったけれど、足枷、手枷についてはすぐにわかった。
私は今日、そんなもので拘束されてしまうのか。
そう思うとまた、じわりと愛液が染み出していくのを感じた。
今日の私は、いつもより感じやすくなっているような気がする。
旦那とのセックスでイったことはほとんどなかった。
けれどもしかすると、今日は何度もイってしまうかもしれない。
そんなことを予感させるような敏感さだった。
「メッセージしてる時から思ってましたけど」
「はい」
「お詳しいんですね」
「もともとこういうのが好きなので」
彼は、穏やかな表情で笑った。
その口から、ボールギャグとか、枷みたいなものの名前が出てきたことがどうにもアンバランスで、私は少し奇妙な気持ちになった。
人は外見だけで判断できないものである。
「着きました」
しばらく歩いたところで、彼は歩みを止めた。
「ここです」
彼が指さす先には、一見ラブホテルには見えない、ひっそりとしたホテルがあった。
「ここですか」
初めてここを訪れた人は、ここがラブホテルだとは気づかないだろう。
「ここ、穴場なんです」
彼は少しだけ誇らしげにそういった。