そこは確かに、穴場のオーラを感じる場所だった。
中に入ると、確かにそこはラブホテルだな、とわかる造りになっていた。
部屋を選ぶためのパネルがあって、受け付けは手を出し入れできるくらいの隙間が空いているばかり。
少し薄暗くなっていて、突き当たりにはエレベーターが見えた。
造りはとても平凡だけれど、やはりなんとなく穴場的なたたずまいを感じる。この差は何なのだろう。
壁の色合いだろうか、パネルの古びた雰囲気だろうか、エレベーターのドアの色だろうか。
そんなことを思いながら、彼についていった。
彼は手慣れた様子で部屋を選び、受付で鍵を受け取った。
「行きましょうか」
彼は淡々とした口調でそう言って、私を連れてエレベーターに乗り込んだ。
「ラブホテル自体は初めてじゃないですよね」
「ええ」
「でも、こういう風に恋人でもない人と来るのは、初めてなんですよね」
「はい」
エレベーターはすぐに止まった。
彼はまた、迷いない足取りで私を先導した。
しかしそのドアの前でいったん足を止めた。
「最後に確認なんですけど、今日は生でしてもいいんですよね」
「はい」
これは私にとっては冒険だ。
以前からピルを飲んでいるから妊娠しにくい体にはなっているし、今日はおそらく安全日だ。
彼とのレスの原因はそのあたりにもあった。
元々彼は子供を欲しがっていなかった。
つまり、私たちが交わる理由がとくになかったというわけだ。
もし妊娠したらどうしよう、とも思ったけれど、妊娠したらしたで、それはそれでいい機会になるかもしれない、とも思っていた。
けじめをつけて、旦那と別れることだって、私の選択肢の一つなのだから。
「じゃあ、入りましょう」
彼は外開きのドアを開いて中へ促してくれた。
入ってみると、そこは思いのほか広く、大きなベッド一台と小さな机が一つ置かれていた。
「先にシャワーを浴びましょうか」
「はい」
私が言うと、彼は素直にうなずいて、そこで服を脱ぎ始めた。
「先に入られますか?」
脱ぎ始めた彼を見て私が言うと、
「一緒に入らないんですか?」
彼の至極当然、といったような表情でそう聞いてきた。
もう彼の中では始まっているのだ。
その時私はようやく悟った。
私が驚いているのを気にもせず、彼は服をすべて脱ぎ捨ててしまった。
ぼろん、と放り出されたペニスはまだ勃起もしていなかったが、それでもサイズは大きかった。
あれが今日私の体につながるのだと思うと、緊張してしまう。
私も彼にならって、その場で服を脱いだ。
「行きましょう」
「あ、そういえば」
私はホテルについたら言おうと思っていたことを、彼に伝えた。
「これからは、敬語使わないでほしい、です……」
「……。わかった」
彼は、微笑みながらそう答えてくれた。
「じゃあ、行こう。今日子さん」
生まれたままの姿になった私の手を引いて、彼はシャワールームへ向かった。