ラブラブ

私の初体験は、結婚してから半年後のある日でした。

さっきまでずっと成功する妄想ばかりしていたけど、よくよく考えれば失敗する可能性もあるじゃん。

どうしよう、やっぱり明日にしようかな。

香はそんな事を思案しながら、見慣れた彼の黒い背中を尚も凝視している。

海里の背中がとりわけ魅力的なのではない。

寧ろ哀れだった。

いやいや、絶対に挫けては駄目。

今日こそは彼とセックスするって、決めたんだから。しっかりしないと。

しかし香は彼の寝込みを襲うのは何だか可哀相な気もした。

何も彼だって悪気があってこんな事をしている訳ではあるまい。

香と出会うまで、全く異性と関わる事がなく、童貞のまま30歳になってしまったのだから、しょうがない気もした。

只そう思う事で、また彼を待ってみたところで、何も起こらない。

香は自分の甘えた考えを今すぐ払拭する為に、自分の頬をぐっと強く、抓ってみた。

海里は今日は特に疲れたらしいが、それでもまだ寝てはいないらしかった。

香はベッドの上で、なるべく音を立てないように体をグリグリ動かして彼に接近した。

そしてバッと勢い良く彼の体に抱き付き、そのままで彼を自分の下にして、キスをし、服を脱がせて…。

香は驚きのあまり、その場に動けなくなった。

彼の背中が、襲う心構えをしている最中に、彼の端正な顔に変わってしまったのだ。

「え…?」香と海里は、暫くそのままの態勢で見つめ合っていた。

何?何でこっちを向くの?今まで一度も私に顔を向けなかった癖に。

「香ちゃん」

香は自分の名前が呼ばれた事に、暫くの間気づく事が出来なかった。

彼から名前を呼ばれたのは久し振りの事だった。

香は返事をしようとしたが、どもってしまって上手く声が出ない。

緊張しているのだろうか?きっとそうだろう。

しかしなんだろう、この微かに感じるあったかさは。

「香ちゃん」

また海里が言った。

その声には、先程の声よりも重みがあった。

香はこれにも上手く返事が出来ず、只彼の鋭く光る目を見た。

海里は香から返事が来ないとわかって、自分で喋りだした。

「俺さ、今までビビってたけど、もう嫌になったんだよ。逃げるの」

香はまだ彼の目を見ている。

「俺、今日こそは香ちゃんと、エッチがしたい」

香は急に恥ずかしくなった。

今までの腹いせに、意地悪な返事をしてやろうかと思った。

が、そんな事は出来なかった。

そんな感情よりも、嬉しさの方が何倍も勝っていた。

身内がジリジリと火照ってくるのを感じる。

彼の口からエッチなんて言葉を聞いたのも、まるで10年以上も前のような感じがした。

香は純粋な気持ちで頷いた。

海里はそれを見て、優しく微笑んだ。

海里はその場に上半身だけ立たせて、香の方に近寄ってきた。

香は胸をドキドキさせながら、彼の体の近づくのを待っていた。

こんだけドキドキさせられたのも、大昔の事みたい!

海里は香に寄り添って、腕を香の首の下をくぐらせた。

そして上から重ねるようにキスをした。

今までの海里ではなかった。

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