この短い物語は、ある学校の修学旅行の最終夜に起こった、淡く甘美な2人の男女の初夜が描かれている。
今から丁度15年前の春の事、2人は各々の心の内に、互いに対する激しい恋情を秘めながら、仲の良いクラスメイト等とバスに乗り込んで行った。
外は小雨がしとしとと寂しげに降っていた。
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皆居なくなって静かな部屋に、
部屋には時計の秒針の動く音が鳴り響いている。
「まだかな?…」
時計の針は既に、約束の時間の5分程先を指していた。
1分が経過して、又1分が経過する。
しかし彼は一向に来る気配が無い。
(早くしないと、皆戻って来ちゃうよ。それとも、やっぱり私の事…)
愛花は緊張と不安に胸が締め付けられるのを感じる。
締め付けられて、心臓が苦しげにバクバクと
愛花は両膝の間に頭を突っ込み、影に彩られた新鮮な匂いのする布団をじっと見つめた。
そして頭の中で、
それからどんな風に自分の彼に対する好意を伝えれば良いのか、考えた。
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………
(こんばんは?いやいや、これはあまりにもよそよそしいから駄目だ。じゃあ、何て声をかけたら良いだろう?
え、ちょっと待って、私、挨拶の仕方もわからないの?)
愛花の脚に隠れた顔が、影の中で微かに紅潮した。
これからの事を予想して、それに対する緊張と不安、そして彼にかける言葉の全く思い浮かばない自分に対する恥ずかしさと呆れの為に、
彼女はもう、生きてる心地がしなかった。
颯は、まだ来ない。
「おい!颯!早く引けよ!」
「お、うん」
颯は
ダイヤの6。
颯の手持ちは、自分だけなるべく早く抜けて愛花の居る部屋へ行くという
(やばい!早くしないと!)
約束の時間迄もう2分を切った。
颯は正座で貧乏ゆすりしながら、チラチラと床の間の横にかかっている時計を気にしつつ、トランプに参加していた。
雅樹が颯の手持ちから、ハートの5を引き、クソ!と悔しがった。
トランプを始めてから20分程経って、ゲームは
こんなに時間がかかったのは、自分の引きの運の悪い事と、健人が一々自分の番の時にふざけまくったせいだ。
………
………
やっと行ける!そう思ったのも束の間、
「もう一度やろう」などと言い出した。
しかも皆、それに賛成してしまった。
「あ、ごめん、俺ちょっと抜けるわ」
「何で?」
「え?あ、いや、ちょっと喉乾いたからさ、自販機で何かジュースでも買おうかと思って」
「あ、そう、じゃあ、俺のも買って来て、何でも良いから。俺ら先にやっちゃうから、颯はこの次な。早く戻って来いよ」
颯は頷いて、財布も持たずに急いで部屋を出た。
そして走って愛花の所へ向かった、胸を高鳴らせながら。