私、佐伯ひな子は高校一年生のときから、男子水泳部のマネージャーをしている。
慣れない部活動にワタワタしていたのはこの前のはずなのに、気がつけばもう二年生になっていた。
そして先輩になった私の目の前には今、今年入部した十名の一年生男子たちが、緊張した面持ちで並んでいる。
「じゃあ出欠を取ります。名前を呼ぶので、その場で返事をして下さい」
「はい!」
十人分の元気な声が響いて、私は思わずにこっとした。
一歳しか違わないけれど、後輩は後輩である。
元気で可愛いな、などと思いながら、一人一人の名前を呼んだ。
「相田太一くん」
「はい」
「枝野久志くん」
「はい」
「椎名竜也くん」
「はいっ!」
一際大きな声が響いたと同時に、一列に並んだ男子たちの真ん中あたりで、バッと腕が上がる。
経験者ばかりだからか逞しい体つきの男子が多い中、一際背が高く、ガタイのいい一年生が、元気よく手を上げていた。
「おいおい、手は挙げなくていいぞ」
ははは、と水泳部の先輩男子が笑うと、手を挙げていた一年生――椎名竜也は、顔を赤くしながら慌てて腕を下ろした。
「ふふ、元気でよし」
「あ……あざっす!」
椎名くんは笑顔を向けた私に、少しだけ照れくさそうな笑みを返してくれた。
彼は塩素で茶色くなった髪と、整った涼し気な顔をしていて、ともすればチャラチャラした印象を受ける。
けれど水泳を続けてきた人間特有のしっかりした肩幅と、引き締まった肉体を見れば、そうではないと分かった。
それに、なんと言っても屈託のない笑顔は大型犬を思わせる可愛らしさがある。
「じゃあ、続けて出欠取りますね」
椎名くんはその後、出欠を取り終わるまで、私の方を見てにこにこしていた。