必ず迎えに来るから・・・
それから数日がたち、夏休みも残りわずかになっていた。
私は提出用レポートの作成を急いでいた。
そして、その間、ケンタ君は全く顔を出さなかったのです。
気になってはいたけど、レポートの作成に追われていたので、それが一段落してから、私は早速ケンタ君に会いに行きました。
2人で一緒に浜辺を歩き、なぜ、顔を出さなかったのか、その理由を聞いてみた。
どうやら、ユウタ君のことだったらしい。
海女さんの誰が見ていたのか、どこから秘密が漏れたのか、それは定かではない。
でも、ケンタ君はあの日のユウタ君と私が一夜を過ごしたことを知ってしまったようだ。
「ごめんなさい。お祭りをいいことにハメを外しすぎたわ。許してくれるかな?」
と私が謝ると、
「いいよ。全然恨んでなんかないから・・・」
「・・・本当にごめんね」
「僕なんか子供の頃、母親にキズモノにされたから・・・、美由紀さんについて行く資格なんてなかったんだよ」
彼は震えた小さな声で言いました。
そして、続けざまに、
「だから・・・、美由紀さんにさよならしようと思っていたんだ」
と寂しそうな顔で言ったのです。
「その考えは間違っている。ケンタ君はキズモノなんかじゃないわ。被害者だよ。そうだわ、今夜家においでよ、2人でゆっくり話そうじゃないの」
「ダメだ、今夜は無理だよ」
「だけど、私は2日後には帰らなくちゃいけないんだよ」
「お願い、明日は必ず行くから」
翌日、まだ明るいうちにやって来たケンタ君を無言のまま抱き締めてキスをした。
「誰にも渡しやしないわ」
私の言葉にケンタ君の目から涙が溢れ出した。
そのまま寝室に行くと、涙目で私を布団の上に押し倒してきたが、私は抵抗することなく彼を受け入れました。
もうケンタ君は、トラウマの呪縛から解き放たれているようでした。
そして、最後の夜は豪華に過ごそうと、ケンタ君はこの日のために予約してくれていたレストランに案内してくれました。
今日のケンタ君は、終始ずっと明るかった。
こんなに明るく振る舞うケンタ君を見るのは初めて。
食事が終わりレストランを出ると、眩い星明かりの夜空の下、一緒に海岸を散策することにしました。
「僕も名古屋まで一緒に行ってもいいかな?」
意を決したように突然そう言って、ケンタ君は私の手を握ってきたのです。
「来年の3月に卒業する。そしたら、職に就かなければならないの。だから、待ってて。落ち着いたら必ず迎えに来るから」
と言って、ケンタ君の手を握り返した。
ケンタ君は少し不満そうな表情を浮かべたが、それ以上は何も言わなかった。
その日の夜、ケンタ君とそのまま海辺の大きな岩の陰で激しく乱れ 私は何度も何度もアクメに達しました。
それから半世紀以上たったが、結論を言うと、大学を卒業して就職した後、ケンタ君を迎えに行くことはできなかったのです。
その後の私の人生はというと、就職してから5年後に結婚し、良き旦那さんと2人の息子に恵まれて、私なりに幸せな人生を送らせてもらっている。
あれ以降会っていないケンタ君は、今どうしているのだろうか。
トラウマを乗り越えて、新たなパートナーと幸せに暮らしていればいいのだけど・・・。
そんなことを考えながら、今私は旦那と2人、のんびりと年金生活を送っている。