「えーと、アニマルセラピーとかあるじゃないですか。わざわざセックスですか……?」
セックス、正直めんどくさいし嫌いなんだよな、と顔に出ているだろう。
特に旦那のセックスは本当に苦痛だ。
先生は私があまりに複雑な表情を浮かべていたから「こいつ雑につっこまれて終わりなんだろうな」とか察してくれたのだろう。
苦々しく微苦笑する。
「うん、沙也加さん他人とのコミュニケーションに飢えてるでしょう」
「……まさにそのとおりです」
コミュニケーション。
そう、現在旦那とはまともな会話すら続けられない。
まず第一に常にテレビかケータイを見ていて、会話など片手間だ。
当然返事もろくにしない。
そのため数日前に会話した内容を「記憶喪失なのか?」と疑ってしまうほど彼は忘れてしまう。
総じて、夫とのやりとりは砂のように
「セックスってね、究極のコミュニケーションなんだよ。
お子さんがいる以上、沙也加さんは日常的に友人と会うことも難しいだろうし、短時間で手っ取り早く、高い効能が望めるのはセックスセラピーが考えられるかなって」
「な、なるほど……? えーと、そういうのって風俗を利用するとか……?」
「そういう手もあるね。僕は今回これを紹介しようかと思っていて……」
タブレットの画面に出ているのはカフェのホームページかと見紛うような、ふんわりとした雰囲気のサイト。
カウンセリングを重ねて「セックス」による癒しを提供したいとある。
「利用者は完全紹介制で担当者はあくまでセラピストなんだ。ほとんどが医療従事者だったり、心理学を学んだ子が多いね。医療的な実験ていう側面が強いけど、もちろん保険適用外。どう? 検討してみる?」
今日の夕飯どうするの? くらい穏やかでのんびりした口調。
そんなカジュアルなモノなの?
と疑問を抱くよりも瞬間的に、思わず
「え、あ、はい」
とどっちつかずな返答をしてしまった。
そして、今日にいたる。
あれよこれよと登録した結果、私を担当してくれるセラピスト、
ただの挨拶と自己紹介。
日常的な会話が続き、夕飯の写真を送ったところ
「おかずが3品も並ぶ食卓なんて羨ましい! 全部美味しそうです!」
という反応に涙が出た。
そして
結婚2年目にしてたったこれだけの会話すら無くなった事実にも、提供した食事に全肯定のコメントがつくありがたさにも。
それは枯れ果てて、ささくれた荒野に降り注ぐ優しい雨のようで。
私が欲しかったものが画面の中にある。
心が潤ったのと同時に、浅ましいほどの身体の渇きを自覚させられた。
(私、抱かれたい)
夫以外の男の人に。
丁寧に、大切に、女性として尊重されたい。
私の覚悟は強固となったのだった。