教育実習で出会った一人の元教え子
「先生、キレイな爪ですね」
彼が私の手を見て言った。
そんなことを言われたことがない。
意地悪く聞いてみた。
「爪だけ?」
「あ、いや、手も」
手?そっちかあ。
こう見えても見た目にはちょっとは自信があるんだけど。
………
………
まあ10代の頃とは違うし、浜本君から見れば8歳差はかなりの大人に見えるかも。
うん、そうね、確かに他に褒めるところはないか。
「僕、爪のキレイな女性が好きなんです」
えっ?私のことを好きなの?
いや、違う。
私ではなく、私の爪が好きなのだ。
まあいいか。
いつもは4時半頃に帰るのに、その気配がない。
その日はたまたまご両親と妹さんが用事で出掛けており、お弁当で済ませるつもりだった
と言った。
「だったら、晩ご飯を食べて帰りなさい」
「いいんですか?」
「いいよ。食べたいもんある?」
先生を食べたいなんて言わないだろうな、高校生じゃあ。
「下のスーパーに行ってくるから留守番しといて」
浜本君を喜ばせたい。
キャンディーズの年下の男の子をハミングしながら、得意のハンバーグを作った。
それに、いつもは作らないデミグラスソースも作って食べさせた。
「うわ、美味しいです!」
よし!
彼の胃袋を
個別指導という秘密を共有しているのが怖いけれど、楽しかった。
翌日、学校の廊下で偶然浜本君に出くわしてドキッとした。
………
………
あんな弟がいればいいなぁ・・・。
いや、弟だったら、こんなにドキッとしない。
それ以来、学校で浜本君を目で探すようになり、彼を見付けた時は嬉しかった。
それは、まるで少女の切ない恋心のようだった。
すると、まだ教師になる以前の大学時代の教育実習で出会った、ある一人の元教え子
のことが、ふと頭をよぎる。
私が教育実習である高校に行った初日のこと。
「え、え~と、きょ、今日から教育実習生としてお世話になります、
短い期間ではありますが、みなさんよろしくお願います」
アカン・・・、緊張しまくってるやん。
緊張しすぎで、ちょっと自信を失いかけていた。
最初の授業が終わった直後の休み時間。
そんな緊張していた私を励ますかのように、
「横川先生、俺、
楽しみにしています!」
満面の笑顔で、そう私に声を掛けてくれた、一人の男子生徒がいた。
クラスの人気者だそうで、明るく誰とでもすぐに打ち解けることができる性格。
見た目もまあそんなに悪くはない。
きっと女子生徒にモテるんだろうなぁ、と思わせるいい感じの男子だった。