「ねぇ君どうしたの?ああ、もしかしてあのランプ見てんの?」
アルコールの匂いをさせながら男が話しかけてくる。
男はカウンターを覗き込んでいる私の背後にべったりとくっついて、
勝手に腰に腕を回してきた。
「今日バー休みなの?」
身を捩って振り返ると、二十代後半と見える男はくすくすと笑って私を見やった。
「あー、もしかして今日ハジメテ?」
「そうだけど……」
「そっかそっかぁ。このバーは基本的に営業してないんだよ。
あのランプの設置場所みたいなもん。
あのランプ面白くてさ、五九回ぴかぴかした後に……」
その時、わっとフロアが沸き立った。
ランプが赤色に光り、
ダンスフロアの天井から白いスモークが降り注ぐ。
熱くなった体に冷たいしずくが落ちて、
みんな気持ちよさそうに天を仰いだ。
「ああやってスモークが出るんだよ。どう?気持ちいいよね」
「そうね。あなたが触ってなければ、もっと気持ちいいかも」
「あはは、ごめんねー」
男は笑いながら私から手を離すと、
「またね」
と言って人混みの中に去っていく。
私は無人のカウンターに寄りかかりながら、
ますます熱を帯びていく群衆を見やった。
ふと、先ほどまでちらほら見えていた女性の姿がないことに気づく。
不思議に思いつつも、たまたまかなと思い直し、二回目のスモークを見上げた。
「……っ!?」
ずん!と下腹の辺りが重くなった。
続いて目眩と、アルコールに酔ったときのような
。
足がガクついて、ヒールを履いた靴ではとてもじゃないが立っていられない。
私はカウンターに
ずるずると汚れた床に座り込んだ。
「あれー?君、大丈夫?そーれっ」
「ひっ」
近くにいた男性が、私の両脇を支えて無理に引き起こしてくる。
触られた場所が異様なほど熱を持ち、
私は困惑のあまり裏返った悲鳴を上げた。
その悲鳴に気付いた数名が、一斉にこちらを振り返る。
皆、陽気で楽しそうな、酩酊しているような顔をしているのに、
目だけはぎらぎらと濡れ光っていた。