マニアック

妄想女子とリアル体験

「やばい……今月もピンチだぁ」

 スマホで管理しているクレジットの明細を見て、私、玲愛れあはため息をつく。

「それ、毎月聞いてる気がするんだけど、玲愛がピンチじゃないときってあるの?」

 マジで困窮しているというのに、同じ大学に通う友人、美緒みおは茶化すように笑う。

「バイトするしかないかぁ……探さなきゃ……」

「玲愛ってバイト続かないよねぇ。前回が居酒屋で、今カラオケ屋だっけ?」

「……カラオケ屋からの……無職です……」

「あー……カラオケ屋は最短記録更新?」

「し、仕方がないじゃん! 居酒屋のバイトはセクハラがきついし、
カラオケは部屋に連れ込まれそうになったんだもん! もう酔っ払いの相手は無理!」

 そう――世の中には、何故かセクハラや痴漢に合いやすい人がいて……

何を隠そう、私はその筆頭たる人物と言っても過言ではない。

「玲愛ったら真面目よねぇ。いちいち気にしなければいいのに」

「美緒はメンタル強すぎ! なんで平然とできるのさ」

「そりゃぁ、私は推し一択だから? 現実の男に興味ないからどんなことがあっても
『ハエにたかられただけ』って思うことにしているもの」

 美緒は絶対零度の笑みを浮かべ、

スマホ画面から一生出てくることのない推しへの愛を囁く

――課金ともいう。

「まぁ、玲愛ってむっつりだから『押せばイケそう』っておもわれるのかもね。
実際は恋愛に憧れすぎて拗らせた処女だけど。
ぱっと見はレディコミ読みすぎてエロい妄想ばかりたくましい子には見えないもん」

「う、うるさい!」

 現実の男に幻滅しまくった結果……

理想の王子様を求めて読み漁った少女漫画が

いつの間にかそっちの方面に行ってしまったのはつい最近の話。

 今では一度も経験がないのに知識だけは豊富になってしまった。

「あ、そういえば、ちゃんとしたバイトじゃないけれど、
取り急ぎお金を稼ぐ方法があるよ」

「え……美緒、まさか推しへの課金のためについに犯罪に手を染めた……?」

「失礼ね。まだそこまで困窮してないわよ」

 まだ、というのが気になる。

「私のいとこが乙女ゲームの製作に関わっているんだけれど、
今度実写動画を作るんだって。
でも、実写反対派と意見がめちゃくちゃ割れているらしくて、
社内コンペのために短編動画を作るそうなのよ。
で、そのモデルを募集しているってわけ。
どう? ちなみに、日給三万円」

「さんまっ……! やるやる! 超やりたい!」

「よしきた。玲愛、高校時代は演劇部だったでしょ? 
話を打診されたとき、これは私じゃなくて玲愛向きの案件だなって思ったんだよね」

「いいの? 私に譲っちゃって……」

「もちろん。三万は魅力的だけれど、
ぶっちゃけ私もゲームの実写反対派だから」

 そして話はとんとん拍子に進み、

私は週末に美緒のいとこさんが勤めているゲーム会社を訪れた。

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