「あれっ、私……」
目を覚ました頃、時刻は既に夕方近くになっていた。
服などは整えられていて、なんだか夢のような心地だ。
上半身を起こすと、医師はデスクを前に座っていた。
………
………
………
「目が覚めましたか。熱も下がったようですし、もう大丈夫ですよ。」
「あっ、はい……」
「もしまた熱が上がるようであればまたお越し下さい」
どくり、と胸が高鳴った。
あぁ、あれはきっと夢なんかじゃない。
「はい、……また、来ます」
私は鞄を手に、医師へ会釈して病院を後にした。
歩き出して感じる下半身の感覚に、やはりあれは現実だったのだと突きつけられた。
翌日、すっかり熱も下がり、私は会社へと出勤した。
方向はまったく逆なのに、つい振り返ってあの病院の看板を見つけようとする。
「っと……遅刻しちゃうか……」
昨日の事を思い出して赤くなる。
あり得ない、あり得ない事なのに、私はあの医師の虜になってしまったようだ。
そう、風邪を引いたら……脇道にあるあの病院へ。
ごくりと唾を飲み込んで、私は駅の改札を抜ける。
「また、風邪ひかないかなぁ……」
そんな事を、ぽつりと呟いたのであった。
- FIN -