「ねえ」
「あの」
私たちは同時に声を出した。
「佐藤君から先に」
「先輩から先に」
また言葉がかぶって、私たちはお互いに向けて手を差し伸べた状態で止まってしまった。
私がしばらく口をつぐんでいると、
「先輩から、どうぞ……」
と彼から促された。
「じゃ、じゃあ私から……」
私はそういってから話し始めた。
「ねえ、佐藤君」
「はい」
「もしかしてさ、え、えっち、したいと、思ってる?」
「そ、それは……」
沈黙は時に何よりも強い肯定になる。
「わ、私はしたい、と、思ってるんだけど……」
「ぼ、僕も……」
「で、でもさ、持ってる?アレ……」
「アレって……、ああ……」
なかなかそれを使う機会もなく、名前がとっさに思い出せなかった私がワタワタとジェスチャーしていると、彼は察してくれた。
「コンドーム、ですか?」
「そう、それ」
「僕も、持ってなくて……」
「だよね」
いったん沈黙したが、
「か、買ってきます!」
彼はそういって勢いよく立ち上がった。しかし私はそこで気づく。
「このままで?」
「このままって……、ああ……」
ちょうど私の目の前に、ギンギンにそそり立っているペニスがあったのだ。
「これをいったん鎮めてからでも、いいんじゃないかな?」
「え、でも……、あ!それは!」
少し困ったような顔をした彼だったが、私のしたことに気付いて、途端に顔を赤らめた。
私はそのたぎったペニスを口に含んだのだ。
なんていうんだったけ、これ。そうそう、フェラチオだ。
こんな言葉、普段生きていて使うこともないから、なかなか思い出せなかった。
私は、さっきまで手でやっていたように口を上下させながら、口でペニスをこすった。
じゅぽ、じゅぽ、という生々しい音が部屋に響く。
「ん、う……、先輩、汚いですから……」
「ひひほ」
いいの、と言おうとしたけれど、口にいっぱいになったペニスのせいで、言葉がしっかり出てこなかった。
私もこういう雰囲気になるまでは、フェラチオのようなことをするのはいやだな、と思っていた。
友達から話で聞いている時にも、よくそんなことができるな、なんて思っていた。
普段老廃物を出すために使っているところを口に含むなんて、考えられなかった。
しかし、実際に目の前にしてみると、意外と気持ちも変わってくるものらしい。
確かに臭いし、苦いし、いいことはないけれど、一回やってみるのも悪くはない、と思った。
現に、気持ちよくなっている彼を見ると、とても嬉しかった。
「あ、ふぅん……、先輩、気持ちいいです……」
私は強引に吸い込みながら、彼の顔を見上げた。確かに彼は気持ちよさそうに顔をゆがめていた。
口だけではなくて、手も使って擦るようにした。
彼のものは、太く大きい。
口と手を使えば、ようやく覆いきれるくらいのサイズ。
これって、どれくらい大きいのかな。
他の人と比べたことはないから結局わからないけれど……。
「ほふ?」
どう?と聞いたつもりだったが、やっぱり声にはならなかった。
「気持ち、いいです……」
彼はさっきよりも気持ちよさそうにしている。
その快感は、私にも伝わってきた。だって、びくびくと私の口の中で脈打っているからだ。
どくどくと、私の口の中で動いているのだ。
私はそれを離さないようにしっかりとくわえて、何度もこすった。
舌先でたまに亀頭を刺激しながら、彼の欲望を吸い上げようとした。
じゅぽ、じゅぽ。彼の精液と私の唾液が混ざり合う音がする。
徐々に要領が分かってきた。彼のペニスを伝わる振動が、少し小刻みになってくる。
「先輩、出そう、です……」
そう言われて、私はいったん口を離して、手だけで勢いよく擦った。
すると、私の顔に向かって彼の性欲の塊がぴしゃりと飛び出してきた。
「わっ」
突然のことに驚いてしまって、思わず声を上げてしまった。
「す、すみません」
「い、いいの……」
鼻と頬のあたりにかかったそれを、私は指でぬぐい取った。
「すごい」
これが精液というものか……。
初めて見たけれど、確かにカルピスみたいだ。
「初めてが顔射って、ひどいですね……」
「いいじゃん、びっくりしたけど」
そう。びっくりしたけれど、嫌ではない。
彼の性欲を受け止められた気がして、決して嫌な気持ちはしなかった。
「小さくなった……」
彼のペニスを見ると、まだ太さはあるが、下を向いて小さくなっているのが分かった。
「み、見ないでください……」
魂の抜けたペニスを見られるのは恥ずかしいのだろうか。
私はそう思ってつつきたくなってけれど、ここでまた大きくなってしまっては、せっかく一度抜いたのが無駄になってしまう。
「じゃ、じゃあ買ってきますね」
彼は恥ずかしさを紛らわすように、少し目をそらしながら言った。
「買う場所は分かる?」
「ここからすぐにありましたよね?来るときに見ました」
「もしかして、こうなること考えて探してた?」
「あ、あはは」
こいつ、調子のいいことを……。
そう思ったけれど、私もこうなる可能性はゼロではないと思っていたから、お相子だ。
「行ってきます、待っててください!」
彼は頼もしい態度で出ていった。コンドームを買いに行くだけだけど……。