恋のはじまり

僕たちの初めてはオフィスだった

最初に誘ってきたのは、彼女の方だった。

彼女はゆっくりと椅子から立ち上がって、僕の男の部分を大切そうにスーツの上から優しく触った。

彼女の細くたおやかな指先が、固くそそり立ったそれの裏側を、すっと通り過ぎていくだけで、僕は絶頂を迎えそうになった。

「ああっ!」

思わず漏れ出てしまった声。

「感じてるんですか?」

メガネの奥の彼女の瞳が、怪しく僕を誘う。

「高橋さんがいけないんだ」

僕は彼女の髪をすっとかきあげ、耳を噛んだ。

彼女の耳は、白くて、薄くて、柔らかかった。

口に含むと、それは氷菓子のように冷たくて、甘かった。

「ひゃっ!そこは!」

「感じてるんですか?」

僕は彼女が言ったのとまったく同じ言葉でそう返した。

「いじわる、です」

「そうなのかもしれない」

僕が言いながら少し笑うと、彼女も同じように、くすりとほほ笑んだ。

「仕返しです」

彼女はまた瞳に怪しい光を携えながら僕の体に手を伸ばしてきた。

ゆっくりとズボンのジッパーを下ろしてパンツの隙間から指を入れ、今度は僕の裏側をすぅ、っと直接撫でた。

「んん……」

会社で、しかも彼女のデスクのすぐ近くで、僕の中心をまさぐられていることの背徳感は、言いようもないほど僕を興奮させた。

ここの監視カメラは、入口と全体を映すのに申し訳程度つけられているだけだった。

この部署で扱う内容がそこまで機密性の高いものでもないし、金目のものも保管しているわけではないから、セキュリティに熱心になれないのかもしれない。

だが、一度監視カメラの映像を見た時に、部屋の半分くらいはほとんど映っていないことを知ったのだ。

あれから監視カメラの位置も変わっていないし、この席は死角だ。

つまり、ここでは何をしてもわからないということだ。

何をしても、だ。

「高橋さんだけ、ずるいよ」

僕は彼女のブラウスに手を伸ばした。

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