「はあ、はあ……」
僕も彼女も、息が切れていた。
僕はゴムの処理をし(さすがに会社に捨てて帰ることはできない)、彼女は服を着なおしていた。
激しいセックスだった。僕の人生で思い返してみても、こんなに夢中に縋り付いたことはなかった。
それが彼女も同じだったら嬉しいな、なんてバカみたいなことを考えるくらい、僕は純粋に、そのセックスをかみしめていた。
「気持ちよかった」
彼女の口から、そんな言葉が漏れ出していた。
さっきまで彼女が律義に敬語で貫いていたからこそ、その言葉が本心だということが伝わってきて、僕は年甲斐もなく興奮してしまった。
「僕もだよ」
僕はそういいながら、一度短くキスをした。
「佐藤さん」
「どうしたの?」
「そういえば言ってませんでした」
「え?」
「私、佐藤さんのことが好きです」
「そういえば」
そうだった。
僕は自分の思いを告げていただけで、彼女からの言葉を聞いていなかった。
キスされたことですっかり舞い上がってしまっていたのだ。
「ありがとう、聞く前にやっちゃったね」
「そうですね」
僕が言うと、彼女は小さく笑った。
「付き合ってくれますか?」
「もちろん」
彼女の問いに、僕は聞くまでもない、というばかりに即答した。
そう、聞くまでもないのだ。僕は以前から、君のことを好きだった。
惹かれていたのだから。
「もし、よかったら、なんですけど」
「うん」
「明日とか予定なかったら、なんですけど」
「ないよ」
「私の家に来ませんか?」
「そこでまたセックス?」
「そうじゃなくて!」
「そうじゃないの?」
「いや、そうじゃなくは……」
かーっ、っと彼女の顔が赤くなる。
また、愛おしさがあふれ出す。
「ごめんごめん。お邪魔してもいいなら、行かせてもらうよ」
「ありがとうございます」
「お礼に何か手料理をふるまうよ」
「なんのお礼ですか」
「うーん、付き合ってくれたお礼?」
僕と彼女は、顔を見合わせて笑った。
「あ、家に食材がないかも……」
「じゃあ何か買って帰ろう、何が食べたい?」
「なんでもいいんですか?」
「もちろん」
「じゃあ、パスタが食べたいです」
「わかった」
僕もちょうどパスタが食べたいと思っていた。
体だけじゃなくて、そういうところも相性がいいのかもしれない。
これから、いろいろなことを彼女とこうして確かめ合っていくのかもしれないな。
そう思うと、楽しみでならなかった。
きっと、この付き合い始めた今日のことを、お互い忘れることは決してないだろうな、と思う。
初めてのセックスはオフィスで、初めてのディナーは僕のパスタだった、今日のことは。