「つばきさん、見てください。これは立派な葉ですね。リンと青青しくてキレイです」
あー、ダブった。
<「‥‥この葉は素敵な秋の色に変化しそうです。キレイで、つばきさんみたいです」>
そういえば、前に柳次も言っていたんだ。
キレイってほめてくれた。
でも、相変わらずあたしのことは“さん”づけだ。
………
………
昔は‥‥楽しかった。毎日が。
柳次が隣にいて正解だったころ。
何やってもあたしを見ていてくれていた柳次。
いつからか距離を感じていたけど、柳次もあたしを好いてくれていると思い込んでいた。
「つばきさん?」
そうだ、あたしは柳次じゃないとダメなんだ。
勝手に流れる涙は、無駄にはしない。
「ごめんなさい!あたし‥‥‥あたしやっぱり‥‥「つばき!!!」」
あふれ出る涙は、彼を呼び寄せたかのような気がした。
「え‥‥‥」
「つばき‥‥‥俺は‥‥‥」
戸惑うあたしに迷いはなかった。
あたしはすぐに柳次の胸に飛び込んだ。
そんなあたしを大きく抱きしめてくれた。
どんな罰を受けてもいい。
おじじさまと離れようが、かまわない。
どんな過酷なことが襲い掛かってきてもいい。
「‥‥‥どうして来てくれたの‥‥‥?」
泣いてるの?
小刻みに、わずかに震えている柳次。
あたしは胸からゆっくりと離れて柳次を見た。
そこには大汗かいて、まるで土砂降りの中を走ったかのような状況。
「探した‥‥本当にいなくなるとか考えて‥‥‥」
「よく来てくれたね」
「お前の結婚相手から、電話きた」
「!!」
気が付いて、あの人を探すがもういなかった。
その瞬間、雷が鳴り響く。
「っきゃぁ!!」
昔から雷が苦手なあたしは思わず叫んだ。
それを見て、柳次はクスリと笑う。
「何がおもしろいんだよ!」
「いやぁ悪い悪い。雨降りそうだから、車に行こう」
あたしたちは少しだけ振ってきた雨から逃げるように、柳次の車まで走った。