降ってた雪なんか関係ない。
痛い喉も、つらい呼吸も、考えないでとにかく走った。
途中でつまずいたけど気にしない。
地下鉄に着いたらたけるから着信があった。
不在着信になってる。
折り返したけどつながらない。
(よし、とにかくたけるの職場に行こう!)
財布に忍ばせているサピカを使って地下鉄の改札を過ぎる。
(早くたけるに‥‥‥会いたい‥‥‥あれ?)
この瞬間に思った。
あたしがここまでたけるを求めることって、あまりなかった。
だってあたしたちは結婚して暮らしているから、
“会いたい”
だなんて生まれてこなかった。
相手の存在は、相手を失いそうになって気づくんだな。
ごめんね、たける。
あたしが勝手に拗ねたりするから‥‥‥。
でも、もうしない。しないんだ。
お願い神様。
あたしにチャンスをください。
「きゃ!!」
「いてっ!!」
チャンスってか‥‥‥
あたし誰とぶつかった!?
「ごめんなさい!!」
「おいおいねーちゃん。前向いて歩けや」
怖い人とマッチングしちゃったー!!
「ごごごめんんさい!!」
「あ?なんだねーちゃん可愛いな。俺とデートしてくれたら許す」
変なナンパやろーに捕まるとか最悪。
こんな時、漫画やドラマなら主人公が助けに来てくれるのに。
でもあたしが望んでいる主人公は、
今仕事中。
「急いでいるので‥‥‥失礼しま―‥‥‥!!」
逃げようとしたら腕を引っ張られて、誰かの背中に回された。
「なんだてめぇ。」
「なんだとは‥‥‥」
あたしはそのイケボに聞き覚えがある。
聞き間違えることなんかない。
「なんだとはこちらのセリフですが。うちの嫁に近寄らないでもらえます?」
そう、たけるだ。
「たけ‥‥‥る?」
あたしの主人公はたける。
求める人もたけるしかいない。
「けっ。悪役とかつまんねーから去るわ」
立ち去る男性を見送るころ、たけるはあたしの身体を抱きしめてくれた。