「そういえば次どこ行く?」
「どこか行きたいところはありますか?」
「うーん、どこかな」
可愛い。
斜め上を向いて考え込むその姿を見るだけで、俺の心臓はきゅんと飛び跳ねてしまう。
さっき咲さんは、みんなが見ているのは俺だと言っていた。
でもそれはきっと違うと思う。
みんなが見ているのは咲さんだ。
みんなの視線を追ってみると、その先にいるのは咲さんだった。
咲さんは俺に、かっこいいとよく言ってくれる。
かわいいと言ってくれることもある。
でも、咲さんだってとてもかわいい。
アイドルや女優なんか目じゃないくらい、かわいいのだ。
「俺、そういえば行ってみたいところがありました」
みんなが見ちゃうくらいかわいい彼女がいるっていうのは、純粋にうれしい。
もちろん、そんな理由で付き合ったわけじゃないけれど、やっぱり自分の彼女をかわいいと思ってもらえるのは嬉しいことだ。
ただ、それを俺は独り占めしたい、と思ってしまう。
「どこどこ?」
「こっちです」
俺は
付き合うだけでは飽き足らず、独り占めしてしまおうとするなんて。
俺はあるところへ向かっていた。
今日のデートを計画したときから、そこには見当をつけていた。
きっと行きたくなるだろうな、と思って念を入れておいたのが功を奏した。
「ここです」
俺はある建物の前で止まった。
そこは、初めて見ればきっと何かは分からないと思う。
「え、ここって……」
彼女は俺が示した先を見て、案の定こういった。
「なに?」
「中に入ればわかるかもしれませんよ」
あえて焦らすように俺はそう言って中へ入っていった。
これは余裕演出の一つだ。
中から二人の男女が出てきた。
二人ともどこか疲れていながら、すっきりとしたような顔をしていた。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました」
俺たちから少し離れたところで止まって、そんなことを言っていた。
この建物とそのセリフ。
この二人がどういう関係なのか、興味も出てきたけれど、とりあえず今は目の前のことに集中しなくては……。
この先は、俺にとっても未知の領域なのだから。
「そうなんだ。なんかでもこの建物、穴場って感じだね」
「そうなんです、穴場なんですよ」
俺はそんなことを言いながら、彼女を連れて中に入っていった。
彼女は中に足を踏み入れて驚いた。
「えっと、ここは……、もしかして、ラブホテル?」
入口から少し入ったところにある料金表を見て、彼女は察したらしい。
なぜか彼女の声は上ずっていた。
「そうです。ラブホテルってやつです」
「は、初めてくるよ……」
俺はなるべく余裕を装って答えた。
彼女の方が年上で、あんまり男らしいところも見せられていなかったから、ここは少し余裕を見せたいところだ。
「で、でも、えっちなら家でもできるのに」
「こういうところでするのも、たまにはいいでしょ?」
「た、確かに」
彼女は少し頬を赤らめて、俺から視線をそらした。
「じゃあ、入りましょうか」
俺はあくまで余裕を装って、受付を始めた。