気持ちいい。気持ちいい。もっと、もっと欲しい。
もう頭の中はそれでいっぱいだった。
前にした時でもめちゃくちゃに気持ちよかったのに、今回はもうそれとは比じゃないくらいにすごい。
松葉崩しは挿入感が良い、というのは噂で聞いていたけれど(というか調べて知っていただけなのだけれど)、まさかここまで変わるとは思っても見なかった。
前の時よりも奥まで彼を感じるし、それに、締まりも変わるのか、彼のものが前よりも濃密に自分と絡み合っているような感覚があった。
「だめ、んんんっ!」
「俺がイくまで、やめません」
ちらりと彼の目を見ると、いつもの柔和な色は鳴りを潜め、そこには男としての、そして獣としての彼がいることはすぐにわかった。
もともとの顔が良いからこそ、その凄味はより一層際立っていて、それを見るだけで私はイってしまった。
「咲さん、またイきました?」
「なんで、わかるの?」
「腰がヒクヒク動くからです」
あれって、彼にも伝わっちゃうんだ、と思うとまた恥ずかしくなって、腰が痙攣してしまう。
私って、こんなにイきやすかったっけ。
もしかして、彼に調教されちゃった?
そんなことも思ったけれど、その痙攣が彼にもよかったらしい。
「何回もバイブみたいに揺らされるからかわからないですけど、もうイっちゃいそうです」
吐息交じりに言う彼は、とても魅力的だった。
「イっていいよ」
私が言うと、より腰の動きが早くなって、最後に向けてスパートをかけていることが分かった。
「ん、ん、んぅぅぅぅ……」
一番奥に突いた瞬間、彼は果てた。
精液が流れてくるのを私はかすかに感じた気がした。
「イっちゃいました……」
「これ、めちゃくちゃ気持いいね」
「はい……」
「でも、広くなくてもできたね」
「確かに……」
私がそういじわるなことを言うと、彼は少し力なく、しかし幸せそうに笑った。
彼が果てた直後に、部屋の電話が鳴った。どうやら時間らしい。
私たちは軽くシャワーを浴びてから服を着て、部屋を出た。
「いっぱい咲さんを感じられてよかったです」
部屋を出て、エレベーターに乗ってから、彼はそんなことを言った。
「私もだよ、健」
「え、今もしかして俺のこと呼び捨てに」
そろそろいいかな、と思ってやってみたが、思いのほか反応が良かった。
これで少しまた、関係が深まればいいな、なんて思った。
エレベーターを降りると、二人の男女とすれ違った。
その二人は幸せそうな、懐かしそうな顔をしていたけれど、どういう関係なのだろう。
「僕、これまでずっと後悔していたんだ」
男の台詞に一瞬気をとられたけれど、今大切なことはそれじゃない。
これから大切なのは、彼との時間をどう過ごすか、だ。
もう午後五時を過ぎたころ。夕暮れ時の街は、少し顔を変えていた。
「なんか、見晴らしのいいところにでも行きたいね」
「そうですね」
「そういえば、よさそうな場所見つけてるんだ」
「じゃあ、そこに行ってみましょう」
「うん、行こ」
私はそういって彼の手を引いた。
まだまだ、彼とのデートは続いていく。
その時間を精一杯楽しもう。
私はそう思いながら、彼の手を強く、握った。