恋のはじまり

年下男子の可愛くない逆襲

 在来線に乗り継ぎ、二十分と離れていない距離に私のアパートがある。

途中コンビニに寄った和志がさも当たり前のように

アルコールに手を伸ばすからその背中をひっぱたいてやった。

「えぇー。英恵ねーちゃん意外とお堅い」

「あんたかりにも受験生でしょ。
家出だけでも問題なのに、これ以上面倒ごとの種は作らないで」

「はいはい……会計済ませてくるから先外出て待ってて」

「いいわよ。私が払うから」

「だーめ。一宿の恩として納めるつもりなんだから」

 人に堅いとか言うくせに自分もそこそこ意地っ張りな和志は

食料や飲料水の入った籠を渡さない。

しかたなく私が折れて雑誌コーナーで待つことにした。

「……」

 和志にばれないように、背中を叩いた手を見つめた。

 服の下の、熱く、硬い皮膚。

どこをどう切り取っても、

もう私と遊んでいた頃の子供じゃない。

「そりゃぁ、私も老けるわけだ」

 独り言ちて、微妙に傷ついてみる。

 私と和志は、親戚だけれど血のつながりがない。

 普通、大人になってから『義理の従弟』とこんな風に距離を詰めることはレアケースだろう。

 普通、という言葉を口内でつぶやいてみる。

……私達は、『普通』でいたいのだろうか?

(違う……むしろ……)

「お待たせ。家、もうすぐ近くなんでしょ? 
いいなぁ、都会はコンビニが多くて」

「ねぇ、来客用の布団とかないんだけど。ネカフェのが快適かもよ」

「この期に及んでそういうこと言うわけ?
 それじゃねーちゃんを追いかけた意味がないじゃん」

 そうこうしているうちについてしまったアパートは

一人の時は気にならなかったが、やはり二人いると手狭に感じた。

「適当にくつろいでて。私、着替えるから」

 脱衣所で背中のファスナーに手をやる。

なかなか届かないのが悔しい。

「ん……しょっ……」

 あと少し、というところで和志がひょっこり顔を出した。

「あぁやっぱり苦戦してた。降ろすから、じっとして」

「ちょっ……! あんた何やって」

「動かないでよ、髪まで巻き込んじゃう」

 私の静止など意にも留めず、和志はファスナーを腰まで一気に下ろす。

一日身体に張り付いた喪服は、脱皮するかのようにはだけた。

「も、もういいから!」

 咄嗟とっさにあらわになった下着。
胸元を抑えたが、もう遅い。

「ねぇ……あの日の続きを言いに来たって言ったら、俺は追い出される?」

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