恋のはじまり

年下男子の可愛くない逆襲

 後ろから私を抱きすくめた和志は、耳元でそっと囁く。

「俺の思いは、六年経っても変わらなかったよ。英恵さん」
………

………
 なんのこと、と。とぼけることだってできた。

 ――忘れちゃった。

 ――何年前の話をしているのよ。

 ――そんな前のこと、時効でしょう?

 どの言葉も選べた。

ずるい大人になりきればいいだけのこと。

そして二度と顔を合わせなければ……。

 それなのに、上手く言葉を紡げないのは、

彼を傷付けたくないからじゃない。

 彼に見限られたくないからだ。

「俺はまだ学生だし、英恵ねーちゃんに会いに行くって宣言した形とはだいぶ違っているけれど。
何年も顔を合わせられないこんな状況じゃ俺に勝機なんてないよね
――それとも、最初から与えるつもりなんてなかった?」

 背中から感じる、和志の体温。

 強気な腕の力とは対象に、早る心臓の音が伝わる。

少し怒ったような声音は、私の良心を責め立てた。

「いずれにせよ、俺は少しでも顔を合わせられる瞬間をおめおめ逃せる余裕なんかない。
だから、試してみてよ。俺のこと」

 何を、と。

 紡がせる余裕なんて与えず、

和志は私の腕をとり、乱暴に唇を重ねてきた。

「んんっ!」

 噛みつくようなキスは間も置かず深くなる。

 舌が唇を割り、強引に吸われ、からみ取られる。

 息ですら奪おうとするそれは、

小生意気な言葉とは対象に飢えた獣のようでもあって、余裕も、躊躇ためらいも、

その間に生じる感情を許さない。

「は、あぁっ……んんっ、ふぁ……」

 ――ちゅむっ、ちゅっぢゅう……

 舌と、唇をしつこく追いかけられ、息も絶え絶えになる。

思わずしがみ付けば、

いとも簡単に脱げてしまった喪服がばさりとリノリウムの床に落ちた。

(あぁ、なんて恰好……)

 キスの合間に目を反らせば、下着と薄いストッキング姿の自分が写る。

ぴったりと肉を包んだ透けるそれが妙に嫌らしくて、

これだったら全裸の方がましだと思った程だ。

「ね……和志……ん……ここじゃ、やだ……」

 容赦ない明かりに照らされる己の痴態に

羞恥心が焼けこげそうになる。

和志の指がブラのホックを何度も行ったり来たりした。

「ん、なんで? よく見えるのに」

「だから嫌なの……っ」

 顔を赤らめて抗議すると、彼は嬉しそうに眼を細めた。

「見せてよ。顔を合わせたときから、ずっと喪服の下を想像してた」

 ぷちんと、いともたやすく外されたブラ。

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