「ちょ……ここって」
連れてこられたのは焼き肉屋からそう離れていないアパート。
まさか、と息を飲む。
「俺の部屋」
(い、きなりすぎるでしょ! 何、この展開!)
開いた口が塞がらないが、
乗り込んだ(押し込められた)エレベーターは無情にも閉まる。
想像していなかった展開に焦る一方で一向に離してくれない手を振り払う度胸もない。
あれよあれよと到着した部屋で、靴を脱ぐように促された。
「まだ飲めるんだろ」
反射的に「うん」と頷いてしまう。
缶ビールを「ん」と差し出された。
「あ、え、えぇっと……乾杯?」
「……おう」
かつん、とも、こつんとも違う間抜けな音の後、
きれいに片付いてはいるけれど生活感満載の部屋には沈黙が下りた。
………
………
(き、気まずい……)
先に値を上げたのは私だ。
「あの、は、話って……? てか、久しぶり……」
悪いことをしたわけでもないのに、私は何故かしどろもどろになってしまう。
「お前、破断になったらしいな」
虚をつくとは、まさにこのことで。
人は予想外の出来事が続くと、ありとあらゆる神経や五感が鈍るのか、
私は口を開けたままフリーズした。
「……なんで知ってるの」
そして、その後に続く感情は
「私のこと、笑いたくて呼んだわけ?」
手っ取り早く表に出たのは『怒り』だった。
――誰があんな可愛くねぇ女と幼馴染になりてぇかよ!
――近寄んなブス!
――こっち見んなようざってぇ
耳の奥で蘇る、礫のように投げられた悪態。
急に冷たくされたことが受け入れられなくて。
仲が良かったころに戻りたくて。
歩み寄るたびに突き付けられた言葉。
いつしか、視線で追うことすら許さなくなった彼のこと。
いつだって私を傷つけることしかしなくなった彼のこと。
その全てが、理不尽だった。
だから、私は
「あぁ? 誰もそんなこと言ってないだろ」
「じゃあ何? 同情してくれるの?
私のこと散々ブスとか可愛くないとか馬鹿にしておいて?」
好きだった気持ちが損なわれないように気持ちに蓋をした。