「健くんって、やっぱり視線集めがちだね」
「え、何がですか?」
「いや、何でもない」
「そうですか」
今私と話している彼、健くんは私の彼氏である。
先に言っておくが、彼はとてもお顔が整っている。
つまりイケメンだ。
さっきから男女問わず視線を集めまくっている。
イケメンの彼女になるって、こういうことだったのか、と私は再確認せざるを得なくなっていた。
彼と付き合い始めたのはつい二週間前のこと。
そして、今回が初めてのデートらしいデートである。
それまでの二週間は、私の家に来てもらって、ゲームをしたりはしていたけれど、こうして出かけるのは初めてだ。
ちなみに、セックスは、付き合った日以来一度もしていない。
なんとなく、タイミングを計りかねて、私たちは一歩を踏み出せずにいた。
さて、そんな私たちの初デートだが、もちろん、ある程度視線を集めるだろうことは想像していた。
しかし、まさかここまでのものとは思ってもいなかった。
ちなみに今は、ウィンドウショッピングがてら歩いているところだ。
朝から映画を見て、少し遅めの昼ご飯を食べてから、ぶらぶらと街を歩き。
定番のデートコースではあるだろう。
気づけばもう夕方の四時を過ぎたころだった。
人通りも多くなってくる時間帯だった。
だからこそ、惹きつける視線の多さに驚かされる。
私は、改めてイケメンの彼女なのだという現実を突きつけられて嘆息しているときに、彼が耳元に口を寄せてきた。
「ねえ、咲さん」
「ん、どうしたの?」
イケメンのささやき!
すごい!
耳からとろけそう!
彼は顔だけじゃなくて、声までかっこいい。
声優で例えるなら、某選ばれしメガネの魔法使いの吹き替えをやっていた方みたいな感じの、さわやかな声だ。
「そういえば、さっきから歩いている人たちみんなが、咲さんのこと見てるような気がするんですが」
「え、違うよ、君だよ君!健くんのことをみんな見てるんだよ!」
「お、俺ですか!?」
なんでそんな驚くような顔をするのかね……。
今まで涼しい顔をして歩いていたのは、私が見られていると思っていたからだったとは思いもしなかったよ……。
「絶対咲さんのこと見てると思ったんだけど……」
「え、そんなことないよ!てか、なんでちょっと悔しそうなの?」
「だって、みんなが見ちゃうくらい可愛い彼女連れてるんだって思ったら、嬉しくないですか?」
いやいや、君みたいなイケメンにそんなことを言われる私の方がきっと嬉しいよ?
それに、そんなことで悔しがっちゃうなんて、どこまで君はかわいいの?
え、私こんなに幸せでいいのかな……。
「でも、ちょっと悔しいなぁ……」
彼が何かを言ったけれど、ぼーっとしていたせいで聞き逃してしまった。
「え?なんて?」
「何でもないですよ」
私は聞き返したが、帰ってきたのは彼のさわやかなスマイルだけだった。