「やってる?」
「そんな居酒屋みたいに、入ってこないでください」
「ごめんごめん」
部室の扉を開けると、そこには後輩の
「しかし、寂しいね、私と結城の二人だけ、っていうのも」
「まあ、三年生の先輩たちが引退しちゃいましたからね。仕方ないですよ」
「そだね」
ここは美術室。
そして、私たち美術部の部室兼活動場所だ。
つい一週間前、三年生の先輩たち三人がこの美術部を引退した。
それまでも特別騒がしかったわけではなかった。
けれど、やはり部員の半分以上がいなくなって、私と結城の二人だけになってしまったのは少しだけ寂しかった。
「私の代も本当は後三人くらいいたんだけどね。結城が入ってくる少し前くらいからこなくなっちゃったからね」
この部活は特別厳しいわけではない、と思う。
むしろ、緩いくらいだ。出席すべき日もほとんどない。
けれど逆に、その奔放さのせいで、次第にその子たちは来なくなってしまった。
ここに残っている私と彼は、絵が好きだから、こうして残っている。
そうじゃないと、ここには意味を見出せないのだろう、きっと。
私たちは、放課後ほとんど毎日ここへきて、絵を描く。
私は気ままに好きなものを描いて(静物の時もあれば、風景の時もあるし、人の時もある)、彼は決まって、風景を描いている。
私は彼の絵がとても好きだ。
彼の生真面目さと、繊細さと、やさしさがにじんでいる。
人が良くないと、きっとこんな絵は描けない。
でも彼は、人間を描くのが得意ではないらしい。
自分以外の人間の体をまじまじと見つめたことが無いから、うまく形がとらえられない。
以前聞いたとき、彼はそんなことを言っていた。
私は、そんなものか、と思っていたけれど、彼の絵を見た瞬間からずっと思っていた。
彼の描く、人の絵を見てみたい、と。
「どうしたんですか、先輩。今日は描かないんですか?」
彼がカンバスから目を離して、ドアの近くで立ち尽くす私にそう聞いてきた。
「えっと、ね……」
先輩が卒業する少し前から、私は心に決めていたことがあった。
先輩たちが卒業してからもう一週間経っているのは、最後の最後で覚悟が決めきれなかったからだ。
私は、いつも使っている席に鞄を置いてから、彼に向き直った。
彼はまた、カンバスに目を向けている。
「ねぇ、結城」
「はい」
「私を描いてくれない?」
「はい?」
彼は、