「お前あの噂マジかよ?ひな子先輩と付き合ってるってやつ」
水泳部のロッカールームで声をかけられた俺は、興味津々といった様子で鈴なりに顔を並べた同学年の奴らに、ニヤリと笑ってみせた。
「羨ましいだろ?」
「うわっ!こいつ!ホントにひな子先輩ゲットしたのかよぉ!」
「僕だって先輩のこといいなって思ってたのにっ」
男子たちは口々に文句や不満を言っていたが、しばらくして全員が俺の下半身に視線をやった。
「そういえばお前ら、こんなん彼女泣くだろ?って俺に訊いたことあったよな」
恋人であるひな子先輩は自覚していないみたいだが、あの人は相当モテる。
だからしっかり牽制して、俺だけのものにしておかないとな。
俺は余裕たっぷりな表情で腕を組んで、鈴なり童貞男子たちを順番に見やった。
「実際どうなのか……知りたい?」
「!!」
ピチピチ純情チェリー男子たちは一斉に顔を赤くし――。
「おーい!みんなー!着替え終わった?もう5分過ぎちゃったよ!」
ちょうどその時、ロッカールームの外からひな子先輩の声が聞こえてきた。
俺は一人、颯爽と先輩の元へ向かいながら、わざと大きな声で答える。
「いま行きます!あ、でも、他の奴らは水着にテント張っててしばらく動けないそうです」
「ちょ、お前っ!」
男子たちの焦った声を無視し、仕返ししてスッキリした俺はさっさとロッカールームの外へ出ていく。
真っ赤になっているであろう先輩を想像して、俺は好物を前にした犬みたいにムフフと笑った。