私がその書き込みを見つけた時、私たちは始まった。
それを見つけたのは、仕事から帰ってきてようやく一息ついたときだった。
『オンライン飲みからよろしくお願いします』
年の初めあたりから流行しだした感染症の影響で、オンライン飲み自体は珍しくはなくなっていた。
そういう書き込みは、私がやっている出会い系アプリでもよく見かけられるようにはなっていた。
それでも夏になったころから緊張が緩和したのか、そういう書き込みはめっきり減った。
やっぱりみんな生で会いたいのだろうな、なんて思ったけれど、私はなんとなく、その切り替えがあまりに生々しくて好きにはなれなかった。
そんな中でこの書き込みを見つけた私は、なんだか無性にうれしくなった。
もしかしたらこの人は、私と同じような違和感を抱えているのかもしれない。
そんな風に思ったのだ。
私は気になって、その書き込みの内容を詳しく見てみた。
『初めまして。Shinと言います。最近は直接会う方も増えてきているとは思いますが、まだまだ油断はできないご時世です。得体のしれない人間と直接会うのは怖い、と思う方もいるかもしれません。なので、もしよければオンライン飲みから始めてみませんか?』
丁寧な書き込みだった。
自分のことを「得体のしれない」なんて書くユーモアも、とても面白いと思った。
ファニー、というよりはインタレスティングの意味合いが強いかもしれないけれど。
私はこの時点でかなり興味をひかれていたと思う。
私は彼のアカウントを除いてみた。
アイコンは、少しぼかしのかかった写真だった。
けれど、それでも彼の持っている清潔感とか、やさしさみたいなものは伝わってくるような気がした。
きっと服装とかいろいろなことが重なっているのだとは思うけれど、少なくとも悪い印象を抱くようなものではなかった。
『プロフィールをご覧いただき、ありがとうございます。僕は○○県在住の二十六歳です。IT系の会社で勤めています。趣味は読書(小説とかがメインです)です。会社などでも出会いがあまりないので、良い出会いがあれば、と思って登録しました。読書が好きな方、旅行などが好きな方だと嬉しいです。』
プロフィールは非常に簡潔にまとめられていて、内容も分かりやすかった。
誠実な人なんだろうな、ということはなんとなくそれを見ているだけでも感じられた。
私は元の書き込みに戻って、返事を書き始めた。
『初めまして。Rinと言います。Shinさんのプロフィールなども拝見いたしました。一度お話して出来たらうれしいな、と思います。もしよければお返事ください。連作先などを教えていただければ、そちらにご連絡いたします。』
うん。いい感じだ。
こういうアプリだと、男性側には色々お金がかかってしまったはずだ。
こういう不公平なシステムはどうなんだろうか、といつも思う。
だから私は、なるべく相手側に迷惑が掛からないように、連絡は違う手段でとれるようにしていた。
返信は三十分と待たないうちに来た。
『初めまして、Rinさん。書き込みを見ていただいてありがとうございます。お返事いただけて大変嬉しいです。Rinさんのプロフィールも拝見いたしましたが、僕も是非お話させていただきたいと思いました。もしよろしければ、LINEでご連絡したいのですが、それでもよろしいでしょうか。お手数ですが、○○○〇まで連絡いただければ幸いです。』
丁寧なメッセージだ。私のプロフィールも見てくれたらしい。
そんな大したことを書いた覚えはなかったけれど、少なくとも悪くは思われなかったようだ。一安心。
メッセージの最後にはIDが書かれていた。
私は早速、LINEで彼のIDを検索した。彼のアカウントはすぐに見つかった。
それを登録して、私は早速彼にメッセージを飛ばした。
『○○で連絡いたしましたRinです。よろしくお願いいたします。』
こうして連絡先を交換することはこれまでも何度かあったけれど、実際にあったりするところまで行った人はいなかった。
でも、なんとなく今回は違うような、そんな気がしていた。