お風呂から出て、スマホを見てみると、見慣れないアカウントからのメッセージがあった。
Rinさんからだというのはすぐにわかった。
『○○で連絡いたしましたRinです。これからよろしくお願いいたします。』
LINEのトプ画はおそらく彼女の写真だった。
はっきりと顔が映っているわけではなかったが、アプリで見た時よりも強く、胸が高鳴った。
アプリで彼女の写真を見た時、僕は柄にもなく舞い上がってしまった。はっきりとしたディティールが見えたわけではなかったが、雰囲気がとても僕のタイプだったのだ。
その雰囲気は、文面からも表れていた。真面目そうで、丁寧。
よろしくお願いします、の前に、これから、とついているのがとても嬉しかった。
そうか、これから僕と仲を深めようとしてくれているのか、と思った。
もちろんこれが定型文であることは分かっているが、なんとなく彼女の文面からは、それ以上の親密さを感じ取れたのだ。
僕の好意的な解釈のせいなのかもしれないけれど。
僕ははやる気持ちを抑えつつ、返事をした。
『ご連絡ありがとうございます、Rinさん。改めましてShinです。これから、よろしくお願いいたします。』
一度このメッセージを送ってから、本題に入った。
『これからはまず、メッセージでやり取りできたら嬉しいです。一週間くらいたって、もしお互い話してみたいと思ったら、オンライン飲みっていう形ででもお話出来たらうれしいです。』
最初からがっつきすぎるのも良くないけれど、引きすぎるのも良くない。
いろいろ考えた末にたどり着いたバランスがこれだった。
返事はすぐに来た。
『分かりました。もっと話したいと思ってもらえるように、ここでいろいろなお話出来たらうれしいです。』
このメッセージの後に、ガッツポーズをした何かのキャラクターのスタンプ。
真面目そうな文面と、そのスタンプの抜けた雰囲気が、いい意味でギャップを生んでいて、僕はそれだけで息をするのが苦しくなった。心臓が少し痛い。
このアプリの出会いで、こんな風に苦しくなったのは、思い返してみると初めてかもしれなかった。
それから僕と彼女のメッセージは始まった。
はじめは趣味の話からだった。
彼女も読書が趣味で、しかも小説がメインだった。
うれしいことに、好きな作家やジャンルは似通っていた。
僕も彼女も、好きな作家は中村航さんだった。あの柔らかな文体とあたたかいストーリーが好みなようだった。
好きな理由も同じだったことに、胸が高鳴ったことは言うまでもない。
それから、好きな食べ物の話になった。
僕は鶏肉が好きだというと、彼女はチキンが好きだといった。
食べ物の好みも似ていると知って、僕たちは嬉しくなった。
オンライン飲みの時にびっくりしたくないから、という彼女の要望で、僕たちはお互いの顔写真を交換し合った。
彼女の顔は僕の想像していた通りで、とても誠実そうで、暖かそうな顔だった。
なんとなく見覚えがあるような気がしたけれど、それはきっとアプリやLINEで写真を見て勝手に想像していたからだろう。
僕の場合は、そういうことがよくあった。
彼女も僕の顔は想像通りだったようで、初めて送られてきたのと同じキャラクターが、キャーと顔を赤らめているスタンプが送られてきた。
ドキドキしてくれている、ということなのだろうか。
そう思うと、僕はまた、胸が苦しくなった。
僕たちの会話は、こんな風につつがなく進んでいった。
『私はShinさんとオンライン飲み会してみたいんですけど、Shinさんはどうでしょう?』
『僕もそう思っていました。次の金曜日でどうでしょう?』
『いいと思います。』
僕たちがこの結論に行きつくのは、不思議な話では、全然なかった。
オンライン飲みの日取りは、僕が提案した通り、次の金曜日になった。
二日後。僕たちは初めて、お互いの顔を合わせて、肉声で話をする。