「あ、えっとですね……」
自分でも何を馬鹿なことを言っているんだろう、とは思った。
けれど、私はこの欲望を止めることはできないと、そう、思ってしまったのだ。
「僕も聞いたことはあるんです、けど……」
画面越しの彼の顔は、真っ赤になっていた。
「その、やり方とかはあんまりよく、わかってなくって……」
「わ、私も詳しいわけではないんですけどね……」
やりづらい沈黙。
彼と交わりたい、という強い欲望だけに突き動かされてしまったのがいけなかった。
しかし、ここで引き戻せるわけでもない。
「た、たぶん、画面越しにオナニーしあうもんなんだと、思います……」
「で、ですよね」
ぎこちない空気。
「や、やってみますか?」
言葉を出しづらい空気の中で、彼は画面越しに私の目を見て、そう提案してくれた。
「はい……」
自分から提案したくせに、最後の最後で引け腰になってしまったのは少し悔しいけれど、彼の言葉を契機にして、私は決断した。
「じゃ、じゃあ、脱ぎます、ね……」
「は、い。あの、向こう、向いてた方が、いいですか?」
「そう、ですね……」
その一言で、私と彼はそろってそっぽを向いた。
同じ部屋にはいないのに、同じ部屋にいるような気分。
イヤホン越しに、衣擦れの音が聞こえてくる。本当に私のすぐ後ろで、彼が服を脱いでいるような気がした。
濃密な気配に、私は思わず震えた。
彼にもこの音が聞こえているだろうか。私はシャツを脱ぎながら考えた。
人前で自分の肌を見せるのは、いつぶりだろうか。私は下着を外しながら考えた。
一つ、また一つと、自分を縛り付けるものがなくなっていく。私の体は、そして心は自由になって行く。
「用意、できましたか?」
「はい」
彼の言葉に、私は短くうなずいた。
心臓がうるさい。
この音まで聞こえてしまうかもしれない、と思うと彼に裸を見せるよりもそれは、とても恥ずかしいことに思えた。
「じゃ、じゃあ、振り向いていいですか?」
「はい」
また私は、短くうなずいた。
振り向くと、彼の裸体がそこにはあった。
カメラを引きにしたのかもしれない。
彼の下半身にたぎる欲望まで、きっちりと映し出していた。
私も彼にならって、カメラを少し引きにした。
きっと私の下半身も、彼に見えているだろう。
「真治さん、綺麗な体、ですね」
「栞さんも……」
彼の体は、よく鍛えられていることが分かる、引き締まった体だった。
もし彼に触れられたら、と思うと私はそれだけで興奮してしまった。
自然と、私は自分の股に指を入れていた。そして、自分の乳房を触っていた。
「ん、んんっ……」
自分で触っているだけなのに、まるで彼に触られているような、そんな感覚がある。
彼の方を見ると、彼も自分の欲望に手を添わせていた。
「あ、あぁ……」
彼の声が、イヤホン越しに、耳元で聞こえてきた。