マニアック

私に最愛の影を見る風俗通いの男

性的サービスを求めない変わったお客さん

勤め始めてまだ2週間ほどだったが、すっかりヘルス嬢の仕事にも慣れたある日、
私は店で40代とおぼしき、サラリーマン風の少し変わったお客さんと出会った。

入店したばかりという情報と写真で私を選んだという彼は、シャワーには一緒に入る
ものの、私に性的サービスを求めることはなかった。

「里穂ちゃんは、なぜ、この仕事を選んだの?」

互いにガウンを着ると、彼は私にこう尋ねた。

「えーと・・・、今働いてるお仕事はお給料が少なくて、私が欲しいなと思っている
本がなかなか買えないからです・・・」

私は正直に理由を話した。

「へぇー、どんな本が好きなの?」

「そうですね・・・、推理小説とかミステリーとか、あっ・・・、あと漫画も・・・」

私の答えた内容が余程面白かったのか、彼は笑いながら言葉を続けた。

「里穂ちゃんは面白い子だね」

彼はそう言うと私を抱き締めて、私の頭を撫でた。
………

………
しかし、正直に言えば、私はこのゆっくりと流れてゆく時間がかなり苦手だった。

会話するとしても、何を話せばいいのかわからないし、気に入ってもらおうと思えば、
ムリに作り笑顔をしなければならないからだ。

手コキでのサービスや私の体を触れる時間に移ってしまえば、時間がたつのが早く感じ
られ、仕事はすぐに終わる。

結局この日、彼は私の体を性的に触らないまま、ただずっと抱き締めるだけで終わった
のだ。

 

それからというもの、その40代の男性は、私が仕事に出るたびに指名してくるように
なっていった。

会話は主に私の趣味を尋ねたり、美味しいお店の情報を教えてくれたり、その時によって
様々だった。

そして、決まって最後の30分は無言で私を抱き締めて、ゆっくりと頭を撫でて終わるの
が男性のいつものルーティーン。

そんなある日、男性はいつものように予約をしてやって来ると、いつもとは違って少し
寂しげだった。

「何かあったんですか?」

私がそう尋ねると、男性は少し潤んだ目で、5年間お付き合いしていた婚約者が交通事故
で亡くなって、もうすぐ1年になると私に話した。

男性によると、この店のホームページで私の写真を見た時、婚約者とそっくりだという
私を見つけて、この店に私に会うために来るようになったとか。

男性のスマホに保存してある婚約者の写真を見せてもらうと、本人の私が見ても、
瓜二つと言っていいほど似ていたのです。

しかも、身長は偶然私と同じ157センチで、声まで似ていたというからビックリ。

きっと、私に最愛の婚約者の影を見ていたのかもしれません。

そこから彼は現在一人暮らしであること、孤立無援状態でサラリーマンを続けていること
など、いろいろと打ち明けてくれた。

せきを切ったように話しだした男性は、話すに連れて涙もポロポロと溢れ出してくる。

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