扉の前でひとしきりいちゃついた私たちは、部屋を見て驚いた。
「ほ、本当にそれをするための部屋なんだね……」
部屋の照明とか、そういう道具とかが売られている自動販売機とか、AVが見られるテレビだとか、そういうものが、この部屋の目的を如実に表していた。
「す、すごいですね……」
健くんも少し圧倒されているようだった。
たぶんだけれど、こういうラブホテルは実際に来てみないと、その雰囲気というのは分からないのだろうと思う。
私も、ここまで露骨な空間だとは思っていなかった。
けれど、その露骨さが、いいのだろうな、とも思った。
ここがそういう露骨な空間じゃなければ、きっと気持ちがすごく変わってくるだろうと思う。
「しゃ、シャワーだったよね」
さっき確認してみると、ここは風呂とトイレが別々になっていた。
でも、その分脱衣スペースがなくて、部屋で脱いでいくしかなかった。
「じゃ、じゃあ服を脱がないと」
「そう、ですね」
あれ以来、私たちはお互いの裸を見ていない。
私たちは示し合わせるでもなく、なぜか背中合わせになって服を脱いだ。
どうせ裸を見られるとは思ったけれど、部屋の中で異性と服を脱ぐ、という行為は慣れるものではなかった。
「用意、できましたか?」
「うん」
ベッドの上にあったタオルで体を隠して、振り返った。
彼も、タオルで前を隠して振り返っていた。
「ひ、久しぶりに見たけれど、やっぱり健くん、体、綺麗だね」
「そういう咲さん、こそ」
こっぱずかしい……。
早く入ってしまおう。
そう思ってシャワー室を開けたのだが、そこでびっくりした。
「こ、これ……」
「本当にあるんですね……」
そこには真ん中がへこんだような不思議な形をした椅子、そう、スケベ椅子があったのだ。
「使って、見る?」
「咲さん、使い方知ってるんですか?」
「す、少しは……」
私が少し目線を上げると、彼の視線とぶつかった。
「結構知ってる感じですね」
「い、いやぁ……」
彼はおかしそうに吹き出した。
「ごめんなさい、でも、おかしくて」
「もうっ!」
彼の表情は、とても愛おしいものを見るような表情で、それだけで私はすべてを許してしまった。
「じゃあ、やってみても、いい?」
「は、はい」
彼は少し恥ずかしがっていたけれど、今更恥ずかしがるような関係でもない。
ラブホテル、思っていたよりも、楽しい空間みたいだ。